RAGとは?|AIの回答精度を高める「検索拡張生成」の仕組みと活用法
ChatGPTやClaudeなどの生成AIを業務で使い始めた方の中には、「回答がもっともらしいけれど、実は間違っている」という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。生成AIは膨大な知識を持っていますが、学習データに含まれない最新情報や、自社固有の社内情報については正確に答えられないことがあります。
この弱点を補うために生まれた技術が、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)です。RAGは、AIが回答を生成する前に外部の知識ベースから関連情報を「検索」し、その情報をもとに回答を「生成」するという2段階の仕組みです。
本記事では、RAGの基本的な仕組みから、企業での具体的な活用法、導入時の注意点まで、技術者でなくてもわかるようにやさしく解説します。
RAGの基本──「検索」してから「生成」する
RAGを理解するために、「図書館の司書」をイメージしてみてください。
あなたが図書館で「最近の地方創生の成功事例を教えてほしい」と尋ねたとします。優秀な司書は、まず書架から関連する本や資料を探し出し(検索)、それらを読んだうえで「この地域ではこういう取り組みが成功しています」と回答してくれます(生成)。
これがRAGの仕組みそのものです。AIが「自分の記憶」だけで答えるのではなく、外部の情報源を参照してから回答する。これにより、回答の正確性と信頼性が大幅に向上します。
RAGの2つのフェーズ
RAGは、大きく分けて「準備フェーズ」と「生成フェーズ」の2つのステップで動作します。
準備フェーズでは、AIに参照させたい情報(社内マニュアル、FAQ、商品カタログ、過去の議事録など)を事前にデータベースに登録します。このとき、文書は「チャンク」と呼ばれる小さな単位に分割され、それぞれが「ベクトル」と呼ばれる数値の列に変換されます。このベクトル化により、意味的に近い文書を高速に検索できるようになります。
生成フェーズでは、ユーザーが質問を入力すると、まずその質問に関連するチャンクがデータベースから検索されます。次に、検索されたチャンクと質問文が一緒にAIモデルに渡され、それらの情報をもとに回答が生成されます。つまり、AIは「まず調べてから答える」わけです。
なぜRAGが注目されるのか?──3つのメリット
RAGが企業のAI活用で注目されている理由は、大きく3つあります。
1. ハルシネーション(幻覚)の抑制
生成AIの最大の課題とされるのが「ハルシネーション」です。これは、AIが事実とは異なる情報をもっともらしく生成してしまう現象を指します。たとえば、存在しない法律を引用したり、架空の統計データを提示したりすることがあります。
RAGを導入すると、AIは外部の信頼できるデータベースから情報を取得したうえで回答するため、根拠のない情報を生成するリスクが大幅に低減します。出典が明確になるため、回答の信頼性を検証することも容易です。
2. 最新情報・社内情報への対応
一般的な生成AIモデルには「学習データの期限」があります。たとえば、2024年までのデータで学習したモデルは、2025年以降に起きた出来事を知りません。また、自社の就業規則や商品仕様といった社内固有の情報は、そもそも学習データに含まれていません。
RAGを使えば、外部のデータベースを更新するだけで、AIが参照する情報を常に最新に保つことができます。モデル自体を再学習させる必要がないため、コストも時間も大幅に節約できます。
3. コスト効率の高さ
AIモデルを自社データで再学習(ファインチューニング)させる方法もありますが、これには専門的な技術力と大量の計算リソースが必要です。一方、RAGは既存のAIモデルをそのまま使いつつ、外部データベースを接続するだけで実現できるため、導入・運用のコストを抑えられます。
AWSの解説によると、RAGはファインチューニングと比べて「LLMに新しいデータを導入するためのより費用対効果の高いアプローチ」とされています。
企業でのRAG活用シーン
RAGは、すでに多くの企業で実務に導入されています。ここでは、中小企業でも取り組みやすい代表的な活用シーンを紹介します。
社内ナレッジの検索・活用
社内マニュアル、業務手順書、過去の議事録などをRAGのデータベースに登録することで、「あの書類、どこにあったっけ?」という問題を根本から解決できます。社員がチャットで質問するだけで、AIが関連する社内文書を検索し、要約して回答してくれます。
たとえば、「出張の経費精算のルールは?」と聞けば、経費規程の該当箇所を引用しながら回答してくれるイメージです。新入社員の教育コスト削減や、ベテラン社員への質問集中の軽減にも効果的です。
カスタマーサポートの自動化
FAQや製品マニュアルをRAGのデータベースに登録することで、AIチャットボットが顧客からの問い合わせに正確に回答できるようになります。従来のルールベースのチャットボットとは異なり、自然な言葉で柔軟に対応できる点が大きなメリットです。
顧客の過去の問い合わせ履歴や購買履歴も参照させれば、パーソナライズされた対応も可能になります。オペレーターの負担軽減と、対応品質の均一化を同時に実現できます。
営業・提案資料の作成支援
過去の提案書、受注実績、顧客情報などをRAGのデータベースに登録しておけば、新規提案時に「過去の類似案件ではどのような提案をしたか」をAIが自動で参照してくれます。提案資料のドラフト作成を効率化し、過去のノウハウを組織全体で共有できます。
RAGとMCPの違い──「辞書を引く」と「専門家と会話する」
AI関連の技術として、最近よく比較されるのがRAGとMCP(Model Context Protocol)です。どちらも「AIに外部の情報やツールを接続する」ための技術ですが、その役割は明確に異なります。
RAGは、「検索して情報を取得し、AIに渡す」という単方向の仕組みです。質問に関連する情報をデータベースから取得し、それをもとにAIが回答を生成します。基本的にはステートレス(状態を保持しない)で、1回の質問に対して1回の検索と生成が行われます。
一方、MCPはAIと外部ツールを「双方向」につなぐ通信プロトコルです。AIがツールを呼び出し、結果を受け取り、さらにその結果をもとに次のアクションを実行するという、連続的でステートフル(状態を保持する)なやり取りが可能です。
たとえるなら、RAGは「辞書を引いて調べる」行為、MCPは「専門家と会話しながら一緒に仕事を進める」行為に近いでしょう。RAGが「情報の取得」に特化しているのに対し、MCPは「情報の取得」だけでなく「ファイルの作成」「メールの送信」「データベースの更新」といったアクションの実行もカバーします。
実務では、RAGとMCPは対立するものではなく、補完的に使われるケースが増えています。MCPサーバーの中にRAGの機能を組み込み、AIがMCP経由でRAG検索を実行する、といった構成が一般的です。RAGについて興味をお持ちの方は、MCPについても知っておくとAI活用の幅が広がります。
MCPの詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください:MCP(Model Context Protocol)とは?|AIの「USB-C」と呼ばれる新規格をわかりやすく解説
RAG導入の注意点
RAGは強力な技術ですが、「導入すればすべてが解決する」というわけではありません。効果的に活用するために、いくつかの注意点を押さえておきましょう。
データの品質が回答品質を左右する
RAGの回答精度は、データベースに登録された情報の品質に大きく依存します。古い情報や不正確なデータが残っていると、AIもそれをもとに誤った回答を生成してしまいます。定期的なデータの更新・メンテナンスが不可欠です。
チャンク分割の設計が重要
文書をどのようにチャンク(断片)に分割するかは、検索精度に直結します。チャンクが大きすぎると余計な情報が混じり、小さすぎると文脈が失われます。文書の種類や用途に応じた適切な分割サイズの設計が求められます。
セキュリティへの配慮
社内文書をRAGのデータベースに登録する場合、アクセス権限の管理が重要です。「営業部の社員には営業関連の情報だけを検索させたい」「人事情報は管理職のみがアクセスできるようにしたい」といったきめ細かな権限設定を行う必要があります。
まとめ:RAGはAI活用の「第一歩」として最適
RAGは、生成AIの弱点を補い、ビジネスでの実用性を大幅に高める技術です。改めてポイントを整理します。
- RAGとは:AIが回答する前に、外部データベースから関連情報を検索して参照する仕組み
- メリット:ハルシネーションの抑制、最新情報への対応、コスト効率の高さ
- 活用シーン:社内ナレッジ検索、カスタマーサポート、営業支援など
- MCPとの違い:RAGは「情報検索」に特化、MCPは「双方向の連携・アクション実行」まで対応
「AIを導入したいが、ハルシネーションが心配」「自社の情報をAIに活用させたい」とお考えの方にとって、RAGは最も現実的で効果的なアプローチのひとつです。
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