DX推進 2026.04.09

介護記録のペーパーレス化──手書き記録からタブレット入力への移行手順と現場定着のコツ

介護記録のペーパーレス化──手書き記録からタブレット入力への移行手順と現場定着のコツ

夜勤明けの朝6時半。利用者の状態を思い出しながら、手書きで記録用紙に書き込む。文字が小さくなり、途中で書き直し、気がつけば30分が過ぎている。日勤スタッフへの申し送りノートも書かなければならない。こうした光景は、多くの介護事業所で日常的に繰り返されています。

介護記録は利用者のケアの質を左右する重要な業務ですが、手書きのままでは時間がかかり、情報共有にも遅れが生じます。本記事では、手書きの介護記録をタブレット入力に移行する具体的な手順と、現場に定着させるためのコツを解説します。

介護現場の記録業務が手書きのままだと何が起きるか

ペーパーレス化の話をする前に、まず手書き記録を続けることで生じている問題を整理しておきましょう。「今のままでも回っている」と思っている事業所ほど、実は大きなロスを抱えていることがあります。

記録に1日1〜2時間を費やしている現実

介護現場の記録業務には、バイタル記録、食事・入浴・排泄の記録、ケア経過記録、申し送りノートの記入など、複数の書類が存在します。これらを手書きで処理すると、1人あたり1日1〜2時間を記録作業に費やしているケースは珍しくありません。

夜勤明けの疲れた状態で書く記録は、どうしても雑になりがちです。「あとで書こう」と後回しにした結果、利用者の状態を正確に思い出せないまま記録を書いてしまう。こうした小さな問題が、ケアの質に影響を与えることがあります。

紙の記録は情報共有に時間がかかる

手書きの記録用紙は、物理的にその場所にないと読めません。夜勤者が書いた申し送りノートを日勤者が読むとき、ノートがナースステーションに置かれていなければ探すところから始まります。「誰かが持ち出した」「別のフロアに置きっぱなしだった」ということも日常茶飯事です。

ユニットが複数ある施設では、他のユニットの利用者の状態を確認するために、わざわざ別フロアまで記録を見に行くことになります。この移動時間も積み重なれば無視できないロスです。

転記ミスと記録の読みにくさ

手書き記録のもうひとつの問題は、読みにくさです。急いで書いた文字が判読できない、略語の意味がわからない、日付が抜けている。こうした小さなミスが積み重なると、ケアプランの見直しや家族への報告書作成のとき、正確な情報を拾えなくなります。

また、紙の記録を介護報酬請求のために別のシステムに手入力する「二重入力」も、転記ミスの温床です。記録と請求で食い違いが生じると、返戻(へんれい)の原因にもなりかねません。

タブレット記録に移行するメリット

手書き記録の問題点を踏まえたうえで、タブレット記録に移行することで得られるメリットを具体的に見ていきましょう。

記録時間の短縮──テンプレート入力で半減

介護記録ソフトの多くは、あらかじめ用意されたテンプレートや選択肢を使って記録を入力する仕組みになっています。バイタル数値はプルダウンで選択し、食事量は「全量」「半量」「少量」をタップするだけ。経過記録も定型文を組み合わせて入力できます。

手書きで30分かかっていた記録が、タブレットなら15分で終わる。この差は1日2回、3回と記録のたびに積み重なります。スタッフ1人あたり月間で10時間以上の時間を取り戻せる計算になります。

スタッフ間の情報共有がリアルタイムに

クラウド型の記録ソフトなら、入力した瞬間にデータが共有されます。夜勤者が入力した記録を日勤者がタブレットで確認する。別ユニットの利用者の状態も、手元の端末からすぐに見られる。「ノートを探す」「別フロアに見に行く」という移動時間がゼロになります。

急変時にも効果を発揮します。過去のバイタル推移や服薬履歴をその場で確認できるため、的確な判断と迅速な対応につながります。

介護報酬請求との連携で事務作業も削減

タブレットで記録したデータは、そのまま介護報酬請求ソフトに連携できるものが多くあります。日々の記録が自動的に請求データとして蓄積されるため、月末の請求作業にかかる時間が大幅に短縮されます。

手入力による転記ミスもなくなり、返戻リスクの低減にもつながります。事務スタッフの負担が減ることで、ケアマネジャーがケアプランの作成やモニタリングに集中できる環境が生まれます。

移行の4ステップ

ここからは、実際にペーパーレス化を進めるための具体的な手順を4つのステップに分けて解説します。いきなり全面移行するのではなく、段階的に進めることが成功のカギです。

Step1 現在の記録様式を棚卸しする

最初にやるべきことは、現在使っている記録用紙をすべて洗い出すことです。バイタル記録、食事記録、入浴記録、排泄記録、ケア経過記録、申し送りノート、ヒヤリハット報告書、事故報告書──意外なほど多くの種類があることに気づくはずです。

それぞれの記録について、以下の項目を整理します。

  • 誰が書いているか(介護職員、看護師、ケアマネジャーなど)
  • いつ書いているか(ケア直後、休憩中、勤務終了前など)
  • 1回の記録にかかる時間
  • 記録の保管場所と保管期間

この棚卸しをすることで、「どの記録からデジタル化すべきか」の優先順位が見えてきます。すべてを一度に移行する必要はありません。まずは記録頻度が高く、時間がかかっている業務から着手するのが効率的です。

Step2 記録ソフト・アプリを選定する

棚卸しが終わったら、自事業所に合った記録ソフトを選びます。選定のポイントは後述しますが、ここでは「完璧なソフトは存在しない」ということを先にお伝えしておきます。

大切なのは、「80点のソフトを早く導入する」ほうが「100点のソフトを探し続ける」よりも成果が出るということです。無料トライアルがあるソフトも多いので、候補を2〜3つに絞り、実際に触ってみることをお勧めします。

Step3 パイロットユニットで試験運用する

ソフトが決まったら、いきなり全施設に展開するのではなく、まず1つのユニットで1〜2か月の試験運用を行います。パイロットユニットの選び方は、デジタル機器に比較的慣れているスタッフが多いユニットが理想です。

試験運用の期間中は、紙の記録とタブレット記録を併用します。「タブレットだけでは不安」という声が出るのは当然です。併用期間を設けることで、スタッフの不安を和らげながら、ソフトの使い勝手や運用上の課題を洗い出すことができます。

試験運用で出てきた問題点を記録し、ソフトの設定を調整したり、入力ルールを修正したりしてから、次のステップに進みます。

Step4 全ユニットに展開しルールを統一する

パイロットユニットでの試験運用がうまくいったら、他のユニットに順次展開していきます。このとき重要なのは、パイロットユニットのスタッフを「教える側」にすることです。

外部の講師やIT担当者が教えるよりも、「同じ現場で実際に使っている同僚」が教えるほうが、はるかに定着しやすくなります。「最初は私もできなかったけど、こうやったらすぐ慣れたよ」という実体験の言葉が、他のスタッフの不安を取り除きます。

全ユニット展開後は、記録の入力ルールを統一するためのマニュアルを作成します。ルールが統一されていないと、同じ状態を異なる表現で記録してしまい、データの一貫性が損なわれます。

ソフト選定のポイント

介護記録ソフトは数多くの製品があり、どれを選ぶか迷うのは当然です。ここでは、選定時に必ず確認すべき3つのポイントを解説します。

介護保険請求ソフトとの連携性

最も重要なのは、現在使用している介護保険請求ソフトとデータ連携できるかどうかです。記録ソフトと請求ソフトが連携していれば、日々の記録データがそのまま請求に使えるため、月末の事務作業が大幅に効率化されます。

連携方法はソフトによって異なります。API連携でリアルタイムにデータが同期するものもあれば、CSVファイルをエクスポートして取り込むタイプもあります。自事業所の請求ソフトとの相性を、導入前に必ず確認してください。

音声入力・テンプレート入力の対応

介護現場では、両手がふさがっている場面が多くあります。移乗介助の直後や、入浴介助中の気づきをすぐに記録したいとき、音声入力に対応しているソフトは大きな助けになります。

テンプレート入力も、入力時間の短縮に直結する機能です。バイタル数値の範囲選択、定型文の組み合わせ、チェックボックス式の状態記録など、タップだけで入力が完了する仕組みがあるかどうかを確認しましょう。

オフラインでも入力できるか

意外と見落としがちなのが、オフライン対応です。施設内のWi-Fi環境が不安定な場所(浴室周辺、倉庫、屋外など)でも記録を入力できるかどうかは、実運用において非常に重要です。

オフラインで入力したデータが、Wi-Fi接続時に自動で同期される仕組みがあるソフトを選ぶと、「電波が届かないから記録できない」というストレスがなくなります。

現場に定着させるコツ

ソフトを導入しても、現場のスタッフが使わなければ意味がありません。ペーパーレス化の最大の壁は、技術的な問題ではなく「人の抵抗感」です。ここでは、現場に定着させるための具体的なコツを紹介します。

ベテラン職員への導入は「写真記録」から

タブレット操作に不慣れなベテラン職員に対して、最初から文字入力を求めると、高い確率で拒否反応が出ます。そこでお勧めなのが、「まず写真を撮るだけ」からスタートする方法です。

褥瘡(じょくそう)の経過観察、食事の残量確認、居室の環境チェック──これらは写真を撮るだけで立派な記録になります。「カメラのボタンを押すだけでいいよ」と伝えれば、スマートフォンで写真を撮れる人なら誰でもできます。

写真記録に慣れたら、次は写真にコメントを一言添えてもらう。その次はテンプレートを使った入力へ。段階的にステップアップすることで、「自分にもできる」という成功体験を積み重ねることが大切です。

入力ルールを3つ以内にシンプルにする

ペーパーレス化にあたって、細かいルールをたくさん作ると、現場は混乱します。最初のルールは3つ以内に絞ることを徹底してください。

たとえば、以下のようなシンプルなルールです。

  1. ケアを行ったら、その場ですぐに記録する(あとでまとめて書かない)
  2. バイタルは数値を入力し、経過記録はテンプレートから選ぶ
  3. わからないことがあったらリーダーに聞く(自己判断で省略しない)

ルールが少なければ覚えやすく、迷いも少なくなります。運用が安定してから、必要に応じてルールを追加すればよいのです。

記録時間の短縮効果を数字で見せる

現場スタッフに「タブレットに変えてよかった」と実感してもらうためには、効果を数字で見せることが最も説得力があります。

パイロットユニットの試験運用期間中に、「手書きでの記録時間」と「タブレットでの記録時間」を計測しておきましょう。「手書きだと1回の記録に平均8分かかっていたのが、タブレットなら4分で終わる」という具体的な数字があれば、他のスタッフも納得しやすくなります。

また、「記録の入力漏れが減った」「申し送りの時間が短くなった」「残業が減った」といった副次的な効果も、データとして記録しておくと、管理者への報告や法人内への展開時に説得材料になります。

まとめ──まずは1ユニットの記録から始めよう

介護記録のペーパーレス化は、「一気に全部を変える」必要はありません。大切なのは、小さく始めて、うまくいったら広げるという考え方です。

まずは現在の記録様式を棚卸しし、最も手間がかかっている記録を特定する。次に、記録ソフトを選んで1つのユニットで試してみる。うまくいけば全体に展開し、ルールを統一する。この4ステップを着実に踏めば、大きな混乱なく移行を進めることができます。

ペーパーレス化で浮いた時間は、利用者との対話やケアの質の向上に使えます。記録は大切ですが、記録のために介護をしているわけではありません。テクノロジーの力を借りて、本来の仕事──利用者に向き合う時間──を取り戻しましょう

株式会社Sei San Seiでは、業務プロセスのデジタル化を支援しています。介護記録のペーパーレス化をはじめ、現場の業務効率化についてお気軽にご相談ください。

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