働き方改革 2026.06.19

カスハラ対策が義務化|2026年10月施行で中小企業が今すべき準備とは

カスハラ対策が義務化|2026年10月施行で中小企業が今すべき準備とは

「お客様からの理不尽な要求に、現場の従業員が疲弊している」——そう感じている経営者は少なくないはずです。これまで多くの企業で、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応は現場任せにされてきました。しかし、その状況が法律によって大きく変わります。

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント対策が事業主の法的義務となります。しかも、従業員を1人でも雇用していれば、中小企業であっても例外なく対象です。企業規模による猶予期間は一切設けられていません。

本記事では、何が義務になるのか、罰則はあるのか、そして中小企業が施行までに準備しておくべきことを、厚生労働省の指針に沿って実務目線で解説します。

カスハラ対策義務化とは何か——2026年10月施行の背景

今回の義務化の根拠となるのは、2025年6月に成立・公布された改正労働施策総合推進法です。この改正により、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為(カスハラ)に対し、事業主が雇用管理上の措置を講じることが法的義務として明確に位置づけられました。

厚生労働省が定義するカスハラとは、「職場において行われる顧客等からの言動であって、社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」です。ポイントは、正当なクレームと明確に区別されるという点です。商品やサービスへの真っ当な指摘はカスハラではありません。問題となるのは、要求の内容や手段が常識的な範囲を逸脱しているケースです。

背景には、サービス業を中心に深刻化する従業員の離職・メンタル不調があります。人手不足が続くなか、理不尽な顧客対応で貴重な人材を失うことは、企業にとって看過できない経営リスクになっています。法律は「従業員を守ることは企業の責務である」という考え方を、明確に打ち出したわけです。

何が「義務」になるのか——厚労省指針の4つの柱

2026年2月26日に公布されたカスタマーハラスメント防止指針では、企業が講ずべき措置の具体的な基準が示されました。大きく分けると、以下の4つが柱になります。

1. 方針の明確化と周知・啓発

カスハラを許さないという方針を明確にし、従業員に周知することが求められます。「お客様は神様」という旧来の発想ではなく、従業員を守る姿勢を会社として示すことが出発点です。就業規則や社内ポスター、朝礼などを通じた周知が想定されます。

2. 相談に応じる体制の整備

カスハラを受けた従業員が相談できる窓口を設置し、適切に対応できる体制を整えます。誰が、どこに、どう相談するのかを明確にしておくことが重要です。相談したことで不利益な取り扱いを受けないことも、あわせて周知する必要があります。

3. 被害者への配慮と事後の迅速な対応

実際にカスハラが起きた際、被害を受けた従業員への配慮(メンタルケアや配置転換など)と、事案への迅速な対応が求められます。従業員を一人で対応させない体制、たとえば複数人での対応や上長への即時エスカレーションのルールづくりが核になります。

4. 再発防止に向けた取り組み

起きた事案を記録・共有し、再発を防ぐ仕組みづくりが求められます。悪質な事案を組織として蓄積し、対応マニュアルの改善につなげることが望まれます。

罰則はあるのか——企業が負う本当のリスク

「義務化と言っても、守らなかったらどうなるのか」。多くの経営者が気になる点でしょう。

結論から言うと、義務違反そのものに対する直接の罰金規定は設けられていません。ただし、措置を怠った場合は厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わなければ企業名が公表される可能性があります。採用難の時代に、「従業員を守らない会社」という評判が広まるダメージは小さくありません。

さらに見落とせないのが、安全配慮義務違反による損害賠償リスクです。カスハラ対策を怠った結果、従業員がメンタル不調で休職・離職した場合、企業の安全配慮義務違反が問われ、民事上の責任を追及されるケースが想定されます。罰則の有無にかかわらず、対策を講じることは経営防衛そのものなのです。

中小企業が施行までに準備すべき3ステップ

「大企業ならともかく、うちのような小さな会社で何から手をつければいいのか」。そう感じる経営者のために、現実的な準備の進め方を3つのステップで整理します。

ステップ1:基本方針を文書化する

まずは「当社はカスハラから従業員を守る」という方針を文書にします。立派なものである必要はありません。A4一枚でも、就業規則への一文追記でも構いません。重要なのは、会社として明確に意思表示することです。

ステップ2:相談窓口と対応フローを決める

誰が相談を受け、どんな場合に上長へエスカレーションし、悪質な場合はどう対応を打ち切るのか。この一連の流れを1枚のフロー図にまとめておくだけで、現場の安心感は大きく変わります。電話対応が多い業種なら、対応を録音する旨を事前に伝える運用も有効です。

ステップ3:従業員へ周知し、研修で備える

方針とフローを作っても、現場が知らなければ意味がありません。朝礼や社内研修で共有し、「困ったら一人で抱え込まず、すぐに相談していい」というメッセージを繰り返し伝えましょう。ロールプレイ形式で実際の対応を練習しておくと、いざというときに動けるようになります。

システムとAIでカスハラ対策を効率化する

カスハラ対策は「マニュアルを作って終わり」ではなく、運用し続けることが肝心です。ここで力を発揮するのが、業務システムやAIの活用です。

たとえば、顧客対応の記録を一元管理すれば、悪質な事案を組織全体で共有し、再発防止につなげられます。問い合わせ内容を自動で記録・分類する仕組みがあれば、対応漏れや言った言わないのトラブルも防げます。AIによる一次対応を挟むことで、従業員が直接、感情的なやり取りにさらされる場面を減らすこともできます。

こうした仕組みは「カスハラ対策のためだけ」に導入するものではなく、日々の問い合わせ管理や業務効率化と一体で整えるのが現実的です。義務化を、現場の負担を根本から減らす業務改善のきっかけにすることをお勧めします。

まとめ:義務化を「守りの投資」として捉える

2026年10月1日のカスハラ対策義務化は、すべての企業が避けて通れない法改正です。要点を整理します。

  • 施行日は2026年10月1日。中小企業も猶予なく対象
  • 方針明確化・相談体制・事後対応・再発防止の4つが義務の柱
  • 直接の罰金はないが、企業名公表や安全配慮義務違反のリスクがある
  • 方針文書化 → 対応フロー整備 → 周知・研修の順で準備する
  • 記録管理やAI活用で、現場の負担を根本から減らせる

カスハラ対策は、コストではなく「従業員と会社を守る投資」です。施行直前になって慌てるのではなく、夏のうちに準備を始めておくことが、現場の安心と企業の信頼につながります。

株式会社Sei San Seiでは、MINORI Learningを通じてハラスメント対応や現場オペレーションの研修をご支援するほか、MINORI Cloudによる問い合わせ記録の一元管理・業務自動化で、カスハラ対策と日常業務の効率化を両立する仕組みづくりをお手伝いしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

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