AI活用 2026.07.22

EU AI法とは——2026年8月2日から何が適用される?ハイリスクAI規制の延期審議と日本企業への影響を解説

EU AI法の2026年8月2日適用と企業対応

世界初の包括的なAI規制法であるEU AI法(EU AI Act)が、大きな節目を迎えます。2026年8月2日、ハイリスクAIの分類ルールの一部を除き、広範な規定の適用が始まるのです。

「EUの話だから日本の会社には関係ない」と思っていると、足元をすくわれかねません。EU AI法には域外適用の仕組みがあり、EU域内と接点のある日本企業も対象になり得ます。さらに、採用や人事評価へのAI利用が「ハイリスク」の代表例とされている点は、AI活用を進める全ての企業にとって示唆的です。本記事では、8月2日に何が変わるのか、延期審議の最新動向を含めて整理します。

EU AI法とは:AIをリスクで4段階に分ける世界初の包括規制

EU AI法は、2024年8月に発効したEUのAI規制法です。最大の特徴は、AIシステムをリスクの大きさに応じて4段階に分類し、段階ごとに異なる義務を課す「リスクベースアプローチ」にあります。

  • 許容できないリスク:サブリミナル操作、公的機関によるソーシャルスコアリングなど → 全面禁止(2025年2月から適用済み)
  • ハイリスク:採用・人事評価、教育での評価、信用スコアリング、重要インフラ管理など → 厳格な義務(リスク管理・データ品質・人間の監督・記録保持等)
  • 限定リスク:チャットボットなど → 透明性義務(AIであることの明示等)
  • 最小リスク:スパムフィルタなど → 特段の義務なし

適用は段階的に進んでおり、2025年2月に禁止AI、2025年8月に汎用AI(GPAI)への義務が適用開始。そして2026年8月2日が、法の本体部分が広く適用される「本丸」のタイミングです。

2026年8月2日に何が変わるのか:適用の中身と「延期審議」の現在地

2026年8月2日には、ハイリスクAIの分類ルールの一部を除き、ほぼ全ての章・条項が適用段階に入ります。ここで押さえておきたいのが、直前になって浮上した「延期」の議論です。

欧州委員会は2025年11月19日、ハイリスクAIに適合するための技術基準(整合規格)の整備が遅れていることなどを理由に、ハイリスクAI規定の適用を最長16ヶ月延期する方針を発表しました。延期が成立すれば、ハイリスクAI関連の義務は最大2027年12月まで後ろ倒しになります。

ただし注意すべきは、この延期はまだ確定していないということです。EU理事会・欧州議会での審議を経て初めて成立するため、現時点では「8月2日適用」の法定スケジュールが生きています。実務の受け止め方としては、次の整理が現実的です。

  • 延期の対象はハイリスクAI関連の義務が中心。それ以外の規定は予定通り適用が進む
  • 延期されても「免除」ではない。対応の期限が延びるだけで、義務の中身は変わらない
  • 対象になり得る企業は、審議の行方を注視しつつ準備は継続するのが安全

日本企業はどこから対象になる?域外適用の3パターン

EU AI法は、EU域内の企業だけを縛る法律ではありません。日本企業でも、次のようなケースでは適用対象になり得ます。

  • EU域内にAIシステム・AIを組み込んだ製品を提供している(販売・輸出を含む)
  • EU域内にグループ会社・拠点があり、そこでAIを利用している
  • AIのアウトプット(出力結果)がEU域内で使用される——例えば、日本でAIが生成した評価結果をEU拠点の採用判断に使う場合など

違反時の制裁金は最大で全世界売上高の7%または3,500万ユーロ(禁止AI違反の場合)という高水準です。GDPR(EU一般データ保護規則)と同様、「域外の企業だから大丈夫」という考えは通用しません。

対応の基本ステップは、①自社のAI利用の棚卸し → ②リスク分類の判定 → ③該当する義務の確認 → ④体制・文書の整備 → ⑤継続的な監視の5段階です。まずは「自社のどの業務で、どんなAIを使っているか」を一覧化することが出発点になります。

採用・人事AIは要注意:日本のAIガバナンスにも波及する

EU AI法のハイリスク分類で、日本の実務に最も関わりが深いのが雇用・労働者管理の領域です。求人への応募者を選別するAI、面接の評価AI、昇進・配置の判断を支援するAIなどが該当します。

背景にあるのは、AI評価のブラックボックス化や、学習データに含まれるバイアスが差別を再生産するリスクへの懸念です。この問題意識はEUに限りません。日本でもAI事業者ガイドラインの改訂が進み、経団連もHR部門でのAI活用に関する報告書で公平性・説明可能性の確保を求めるなど、「採用・評価のAIには特に高い透明性を求める」流れは世界共通になりつつあります。

なお、日本で2025年に全面施行されたAI推進法は、罰則を伴わないソフトローの枠組みで、イノベーション促進に軸足を置いています。EUの「ハードロー」とは対照的ですが、EU水準が事実上のグローバル標準(ブリュッセル効果)になる可能性は高く、日本企業も「規制がないから何でもよい」とは言えない環境になっています。人事×AIの実務での留意点は人事×生成AI活用の記事でも詳しく解説しています。

まとめ:8月2日は「AI規制元年」の本番。中小企業もAI利用ルールの整備を

  • EU AI法は2026年8月2日に、ハイリスクAI分類の一部を除く広範な規定の適用が始まる
  • ハイリスクAI規定は最長16ヶ月の延期が審議中だが未確定。対象企業は準備を止めないのが安全
  • 採用・人事評価AIはハイリスクの代表例。リスク管理・人間の監督・記録保持等の義務が課される
  • 域外適用により、EUと接点のある日本企業も対象になり得る。制裁金は最大で全世界売上高の7%
  • EUと取引がない企業も、AI利用の棚卸しと社内ルール整備は将来への備えになる

株式会社Sei San Seiでは、生成AIを実践形式で学ぶ研修「MINORI Learning」や、AIを活用した採用代行「RPaaS」を提供しています。RPaaSでは、AIによる効率化と人間による最終判断を組み合わせた運用を基本としており、「AIをどこまで任せ、どこから人が判断するか」の設計からご相談いただけます。AI活用のルール作りに悩む企業様は、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q1. EU AI法とは何ですか?

EUが制定した世界初の包括的なAI規制法です。AIをリスクの大きさで4段階に分類し、段階に応じた義務を課します。2024年8月に発効し、2026年8月2日にはハイリスクAIの一部を除く広範な規定の適用が始まります。

Q2. 2026年8月2日から何が変わるのですか?

ハイリスクAIの分類ルールの一部を除き、法のほぼ全ての章・条項が適用段階に入ります。ハイリスクAIの義務規定は最長16ヶ月の延期が審議中ですが未確定のため、対象企業は準備を継続すべき状況です。

Q3. ハイリスクAIにはどんなものが含まれますか?

採用選考・人事評価のAI、教育での評価、信用スコアリング、重要インフラの安全管理などが代表例です。該当する場合、リスク管理体制の構築、データ品質の確保、人間による監督、記録の保持などの義務が課されます。

Q4. 日本企業にもEU AI法は適用されますか?

適用され得ます。EU域内へのAI提供だけでなく、AIの出力結果がEU域内で使用される場合も対象になり得ます。EU域内に拠点や取引がある企業は確認が必要です。制裁金は最大で全世界売上高の7%です。

Q5. EUと取引のない中小企業は何もしなくてよいですか?

直ちに義務は生じませんが、EUの規制水準は世界のAIガバナンスの事実上の基準になりつつあります。特に採用・評価へのAI利用は日本でも公平性が問われる流れにあり、AI利用の社内ルール整備が将来の備えになります。

高橋 央

この記事の執筆者

高橋 央株式会社Sei San Sei 代表取締役CEO

株式会社リクルートキャリア(当時)にて地方転職のノウハウを社内外に共有し、北海道をはじめとする地方転職市場の拡大に寄与。2020年にベンチャー企業で人事責任者・子会社取締役を経験したのち、2023年1月に株式会社Sei San Seiを設立。DX・HR領域のサービスを展開。著書に『仕事や将来に迷った時に、若手キャリア層のこれからの描き方』がある。

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