製造業の生産性向上|現場改善の具体策とDX活用ガイド
日本の製造業は、長年にわたり「ものづくり大国」として世界をリードしてきました。しかし近年、人手不足の深刻化、原材料費の高騰、グローバル競争の激化といった課題が重なり、生産性の向上が経営の最重要課題になっています。
とりわけ中小製造業においては、「改善の必要性は感じているが、何から手をつければよいかわからない」「DXという言葉は聞くが、うちの規模で本当に効果があるのか」という声が少なくありません。
本記事では、製造業に特化した生産性向上の具体策を、アナログな現場改善からデジタル技術の活用まで、段階別に解説します。「生産性」完全ガイドと合わせてお読みいただくことで、自社の現場に合った改善の道筋が見えてくるはずです。
製造業における「生産性」とは何か
生産性を向上させるためには、まず「生産性とは何か」を正確に理解する必要があります。製造業の現場では、生産性は大きく「物的生産性」と「付加価値生産性」の2つに分けて考えるのが一般的です。
物的生産性:量に注目した指標
物的生産性は、投入した資源に対して、どれだけの「量」を生産できたかを示す指標です。製造業では最もイメージしやすい生産性でしょう。
例えば、10人の作業員が1日に1,000個の製品を生産していたのが、同じ10人で1,200個生産できるようになれば、物的生産性は20%向上したことになります。ライン改善や設備投資の効果を測る際に使われることが多い指標です。
付加価値生産性:利益に注目した指標
付加価値生産性は、投入した資源に対して、どれだけの「付加価値(粗利)」を生み出したかを示す指標です。いくら大量に作っても、利益が薄ければ経営は改善しません。中小製造業が本当に重視すべきは、この付加価値生産性です。
同じ工数で高付加価値の製品を作る、あるいは不良率を下げてムダなコストを削減する。こうした取り組みが付加価値生産性の向上につながります。生産性の計算方法の記事で、具体的な計算式と使い分けを詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
製造業で見るべき3つのKPI
製造業の生産性を管理するうえで、特に重要な指標は以下の3つです。
- 設備総合効率(OEE):設備の稼働率・性能・品質の3要素を掛け合わせた指標。一般的に85%以上が世界クラスとされる
- 不良率:生産数に対する不良品の割合。不良品は材料・工数・時間すべてのムダに直結する
- 一人あたり付加価値額:従業員1人が生み出す付加価値。経営効率の根幹を示す指標
製造業の生産性が上がらない3つの原因
多くの中小製造業が生産性の伸び悩みを感じています。その背景には、共通する3つの構造的な原因があります。
原因1:属人化と暗黙知への依存
「あの作業はベテランのAさんにしかできない」「段取り替えのコツはBさんだけが知っている」——こうした属人化は、製造現場の生産性を最も大きく阻害する要因の一つです。
属人化が起きると、特定の人が休むだけでラインが止まります。さらに深刻なのは、ベテラン社員の退職とともに長年蓄積されたノウハウが失われる「技術の断絶」です。日本の製造業では、熟練工の高齢化が急速に進んでおり、この問題は年々深刻さを増しています。
暗黙知を形式知に変える——つまり「人の頭の中にあるノウハウを、誰でも再現できるマニュアルや仕組みに落とし込む」ことが、属人化解消の第一歩です。
原因2:老朽化した設備とシステム
中小製造業では、導入から20年以上経過した設備を使い続けているケースが珍しくありません。「まだ動くから」「買い替える余裕がない」という理由で更新を先送りにした結果、頻繁な故障による稼働停止、精度低下による不良率の増加、エネルギー効率の悪化といった問題が慢性的に発生します。
設備だけでなく、生産管理の仕組みも同様です。Excelの手作業管理やホワイトボードでの進捗管理は、少量生産の時代には十分でしたが、多品種少量生産が求められる現在では、リアルタイムな情報共有が追いつかず、判断の遅れや段取りミスの原因になっています。
原因3:多品種少量生産への対応の遅れ
かつての製造業は、同じ製品を大量に作る「少品種大量生産」が主流でした。しかし現在は、顧客ニーズの多様化に伴い、多品種少量生産が当たり前になっています。
多品種少量生産では、段取り替えの頻度が増え、製品ごとに異なる品質基準への対応が求められます。大量生産時代の設備やレイアウト、作業手順のままでは、段取り替えのたびにロスが発生し、生産性が上がりません。柔軟性と効率性を両立する仕組みづくりが、現代の製造業には不可欠です。
現場改善の具体策(アナログ編)
デジタル技術の導入も重要ですが、製造業の生産性向上の土台となるのは「現場改善」です。トヨタ生産方式に代表される日本の現場改善手法は、設備投資なしで大きな効果を生むことがあります。まずはアナログな改善から始めましょう。
5S活動の徹底
整理・整頓・清掃・清潔・しつけ——5Sはあらゆる現場改善の基本です。「うちはもうやっている」という現場でも、改めて見直すと形骸化していることが多いものです。
- 整理:不要なモノを現場から撤去する。「いつか使うかも」は不要の証拠
- 整頓:必要なモノの置き場所を決め、表示する。工具を探す時間は完全なムダ
- 清掃:毎日の清掃を通じて設備の異常を早期発見する。清掃は「点検」でもある
- 清潔:整理・整頓・清掃の状態を維持する仕組みを作る
- しつけ:決められたルールを全員が当たり前に守る文化を育てる
5Sが徹底されている現場は、モノを探す時間がなくなり、異常にすぐ気づき、ミスが減ります。地味に見えますが、5Sの徹底だけで生産性が10〜20%向上する現場も珍しくありません。
見える化(カンバン・アンドン)
「見える化」とは、現場の状態を誰でも一目でわかるようにする仕組みです。代表的な手法として「カンバン」と「アンドン」があります。
- カンバン:後工程が必要なときに前工程に生産指示を出す仕組み。作りすぎのムダを防ぎ、在庫を最小限に抑える
- アンドン:ラインに異常が発生したとき、ランプや表示で全員に知らせる仕組み。問題の即時対応を可能にする
見える化の効果は、問題の早期発見と迅速な対応にあります。問題が「見えない」状態では、対策が後手に回り、ロスが拡大します。逆に、問題が「見える」状態であれば、現場のメンバー全員が当事者意識を持って改善に取り組めます。
多能工化と標準作業の整備
多能工化とは、一人の作業者が複数の工程をこなせるようにすることです。属人化の解消と直結する取り組みであり、以下のメリットがあります。
- 人員配置の柔軟性:欠勤や繁閑に応じて人員を最適配置できる
- ボトルネックの解消:特定工程に仕事が集中するのを防げる
- 社員のスキルアップ:複数工程を経験することで全体を俯瞰する力がつく
多能工化の前提として不可欠なのが標準作業の整備です。作業手順を文書化し、「誰がやっても同じ品質・同じ時間」で作業できる状態を目指します。標準作業書は一度作って終わりではなく、改善のたびに更新していくことが重要です。
ムダ取り(7つのムダ)
トヨタ生産方式では、生産現場に潜む7つのムダを定義しています。ムダを特定し、一つずつ取り除くことが生産性向上の王道です。
- 作りすぎのムダ:需要を超えて生産し、在庫を抱える
- 手待ちのムダ:前工程の遅れや材料待ちで作業者が手を止める
- 運搬のムダ:必要以上に製品や材料を移動させる
- 加工そのもののムダ:必要以上の精度や工程を加える
- 在庫のムダ:原材料・仕掛品・完成品が必要以上に滞留する
- 動作のムダ:歩行、しゃがむ、持ち替えるなど、付加価値を生まない動き
- 不良・手直しのムダ:不良品の廃棄や手直しにかかる工数・材料
まずは現場を観察し、どのムダが最も大きいかを把握することから始めましょう。全部を一度に改善する必要はありません。最も影響の大きいムダから順に潰していくことが、効率的な改善の進め方です。
改善提案制度
現場を最もよく知っているのは、毎日そこで作業している従業員です。改善提案制度は、現場の知恵を組織の力に変える仕組みです。
効果的な改善提案制度のポイントは以下の通りです。
- 提案のハードルを下げる:大きな改善でなくてもよい。「ちょっとした気づき」レベルから歓迎する
- 迅速にフィードバックする:提出した提案に対して、1週間以内に「やる/やらない/検討中」を回答する
- 実行した改善を全員で共有する:朝礼や掲示板で改善事例を紹介し、「改善は当たり前」という文化を作る
- 小さくても表彰する:金銭的な報酬に限らず、感謝や承認を示すことがモチベーションにつながる
改善提案制度が定着している現場は、問題を放置せず、常に「もっと良くできないか」と考える文化が根づいています。これが継続的な生産性向上のエンジンになります。
DX・テクノロジー活用の具体策
アナログな現場改善で土台を固めたら、次のステップとしてデジタル技術の活用を検討しましょう。製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、データに基づく意思決定と自動化によって、生産性をさらに一段引き上げます。
IoTセンサーによる設備稼働率モニタリング
IoT(Internet of Things)センサーを設備に取り付けることで、稼働状況をリアルタイムで監視できるようになります。
- 稼働率の可視化:設備が実際にどれだけ動いているかをデータで把握。体感と実態のギャップに気づくことが多い
- 停止原因の分析:故障、段取り替え、材料待ちなど、停止の原因を分類・記録し、改善の優先順位をつける
- エネルギー消費の最適化:電力使用量をモニタリングし、ピーク時間帯を避けた生産計画を立てる
最近では、後付けで設置できる安価なIoTセンサーも増えており、古い設備でもデータ収集が可能です。まずは最もボトルネックになっている設備1台から始めるのがおすすめです。
AI外観検査(不良品検出)
目視検査は、検査員の経験や体調に品質が左右されるという課題があります。AI外観検査は、カメラで撮影した画像をAIが分析し、傷・汚れ・寸法ずれなどの不良を自動検出する技術です。
AI外観検査のメリットは以下の通りです。
- 検査精度の安定化:人間のように疲労や慣れによる見逃しが発生しない
- 検査スピードの向上:人間の目視検査に比べて、数倍〜数十倍の速さで検査できる
- データ蓄積:不良のパターンや傾向をデータとして蓄積し、製造工程の改善にフィードバックできる
導入コストは以前より大幅に下がっており、中小製造業でも検討しやすい水準になってきています。特に、出荷前の最終検査工程にAIを導入することで、不良の流出防止と検査工数の削減を同時に実現できます。
生産管理システム(MES)の導入
MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)は、生産計画の立案から実績管理、品質管理、在庫管理までを一元的に管理するシステムです。
Excelやホワイトボードでのアナログ管理からMESに移行することで、以下の効果が期待できます。
- リアルタイムな進捗把握:各工程の進捗状況がリアルタイムで見えるため、遅延の早期発見と対策が可能に
- 段取り替えの最適化:類似製品をまとめて生産する順序の最適化により、段取り替え回数を削減
- トレーサビリティの確保:製品ごとに「いつ、誰が、どの設備で、どの材料を使って作ったか」を追跡可能に
- データに基づく意思決定:蓄積されたデータから、生産効率のボトルネックや改善ポイントを客観的に分析
近年はクラウド型のMESも登場しており、初期投資を抑えて導入できるようになっています。
予知保全(AIによる故障予測)
設備の突発故障は、生産計画を大きく狂わせます。予知保全は、センサーデータをAIが分析し、故障の兆候を事前に検出する技術です。
従来の保全方法との違いを整理します。
- 事後保全:壊れてから修理する。突発停止のリスクが高い
- 予防保全:一定期間ごとに部品を交換する。まだ使える部品も交換するためコストが高い
- 予知保全:AIが故障の兆候を検知し、最適なタイミングで保全する。突発停止を防ぎつつ、過剰な保全コストも抑制できる
振動センサー、温度センサー、電流センサーなどのデータをAIが常時分析し、「この設備は2週間以内にベアリングが劣化する可能性が高い」といった予測を出します。計画的にメンテナンスを行えるため、設備稼働率の向上とメンテナンスコストの削減を両立できます。
DXによる生産性向上の詳細については、DXで生産性を上げる方法の記事でさらに深く解説しています。
中小製造業の導入ステップ
「全部やらなければならない」と考えると、何も始められません。中小製造業が現実的に生産性向上に取り組むための4段階のステップを提案します。
Phase 1:現場5Sの再徹底(1〜3か月)
まず取り組むべきは、5S活動の再徹底です。投資は不要、必要なのは経営者の本気と全員の参加だけです。
- 不要品の一斉処分(赤札作戦)
- 工具・治具の置き場所の明確化と表示
- 毎日15分の清掃タイム設定
- 5Sチェックリストによる定期巡回
5Sは「一度やって終わり」ではなく、維持し続けることが最も難しく、最も重要です。経営者自らが現場を歩き、5Sの状態を確認する姿勢を見せることが、定着の鍵になります。
Phase 2:見える化の推進(3〜6か月)
5Sが定着したら、次は現場の見える化に取り組みます。
- 生産実績の日次集計と掲示(目標対比)
- 不良率・設備停止時間の見える化
- 改善提案ボードの設置
- スキルマップ(多能工化の進捗を見える化)の作成
この段階では、まだExcelやホワイトボードで構いません。重要なのは、「数字で現場を語る」文化を根づかせることです。データが見える状態になると、現場のメンバーから「ここをもっと改善できないか」という声が自然と出てきます。
Phase 3:デジタル化(6か月〜1年)
見える化で集めたデータをもとに、デジタル化に着手します。
- ボトルネック設備へのIoTセンサー設置
- クラウド型の生産管理システム導入
- 検査工程へのAI外観検査の試験導入
- ペーパーレス化(図面・作業指示書のタブレット配信)
デジタル化のポイントは、「全面導入」ではなく「部分導入」から始めることです。最もボトルネックになっている工程や、最も効果が見えやすい業務から着手し、成功体験を積んでから範囲を広げていきます。
Phase 4:DX(データ駆動経営)へ(1年〜)
デジタル化で蓄積されたデータを、経営判断に活用する段階です。
- 蓄積されたデータに基づく需要予測と生産計画の最適化
- 予知保全による設備稼働率の最大化
- 品質データの分析による不良原因の特定と工程改善
- サプライチェーン全体の可視化と最適化
Phase 4は一朝一夕には到達できません。しかし、Phase 1から着実に積み上げていくことで、中小製造業であっても十分に到達可能な目標です。中小企業の生産性向上アクションプランでも段階的な進め方を解説していますので、合わせてご参照ください。
まとめ
製造業の生産性向上は、一気にすべてを変える「革命」ではなく、小さな改善を積み重ねる「進化」です。本記事のポイントを振り返ります。
- 製造業の生産性は「物的生産性」と「付加価値生産性」の両面で捉える。特に中小製造業は付加価値生産性を重視すべき
- 生産性が上がらない3大原因は「属人化」「設備の老朽化」「多品種少量生産への未対応」
- アナログな現場改善(5S・見える化・多能工化・ムダ取り・改善提案制度)は投資なしで始められ、大きな効果を生む
- DX活用(IoT・AI外観検査・MES・予知保全)は、アナログ改善の土台の上に段階的に導入する
- 導入ステップはPhase 1(5S)→Phase 2(見える化)→Phase 3(デジタル化)→Phase 4(DX)の順に進める
最も大切なのは、「完璧な計画を立ててから始める」のではなく、「まず始めて、走りながら改善する」というマインドセットです。5Sの再徹底は、明日からでも始められます。
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