働き方改革 2026.02.28

健康経営とは?|離職率低下・生産性向上を実現する中小企業の取り組み方

健康経営とは?|離職率低下・生産性向上を実現する中小企業の取り組み方

「社員が体調不良で休みがち」「メンタルヘルスの問題で突然退職する人が増えた」「採用しても定着しない」。こうした悩みを抱える中小企業の経営者は少なくありません。人手不足が深刻化する時代において、社員の健康は企業の経営基盤そのものです。

近年、経済産業省が推進する「健康経営」という考え方が注目を集めています。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践することです。単なる福利厚生の一環ではなく、企業の生産性向上・離職率低下・採用力強化につながる「経営戦略」として位置づけられています。

本記事では、健康経営の基本的な考え方から、中小企業が取り組むメリット、具体的な施策、そして「健康経営優良法人」認定制度の概要と取得の流れまでを解説します。大企業だけの話ではありません。むしろ、限られたリソースで最大の成果を出さなければならない中小企業こそ、健康経営に取り組む価値があるのです。

健康経営とは何か? --- 定義と背景

健康経営とは、従業員の健康保持・増進を「投資」と捉え、経営的な視点から戦略的に取り組むことです。この概念は、もともとアメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが1990年代に提唱した「ヘルシーカンパニー」の考え方に端を発しています。

日本では、経済産業省が2014年度から「健康経営銘柄」の選定を開始し、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。経済産業省は、健康経営について「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。

なぜ今、健康経営が求められるのか

健康経営が急速に広がっている背景には、いくつかの社会的な要因があります。

  • 労働力人口の減少:少子高齢化により、働き手の確保がますます困難になっている
  • メンタルヘルス問題の深刻化:厚生労働省の「労働安全衛生調査」によると、仕事に強いストレスを感じている労働者の割合は約半数に上る
  • プレゼンティーイズム(出勤しているが体調不良で生産性が低下している状態)の経済的損失が顕在化
  • 人的資本経営への注目:従業員を「コスト」ではなく「資本」として捉える経営思想の浸透

特に注目すべきは「プレゼンティーイズム」です。体調が優れないまま出勤している状態は、欠勤(アブセンティーイズム)以上に企業の生産性を損なうと指摘されています。社員が健康であること自体が、企業の競争力の源泉なのです。

中小企業が健康経営に取り組む4つのメリット

「健康経営は大企業がやるもの」と思われがちですが、実は中小企業にこそ大きなメリットがあります。従業員一人ひとりの貢献度が大きい中小企業では、一人の離脱や生産性低下が組織全体に与えるインパクトが大きいからです。

メリット1:離職率の低下

健康経営に取り組む企業では、従業員の健康状態が改善されるだけでなく、「会社が自分の健康を気にかけてくれている」という安心感が生まれます。これが帰属意識やエンゲージメントの向上につながり、結果として離職率の低下に寄与します。

経済産業省の調査によると、健康経営優良法人に認定された企業は、認定されていない企業と比較して離職率が低い傾向にあることが報告されています。中小企業にとって、社員一人の退職は採用コスト・教育コストの両面で大きな痛手です。健康経営は、最も費用対効果の高い離職防止策のひとつと言えるでしょう。

メリット2:生産性の向上

従業員の心身の健康状態が改善されると、集中力・判断力・創造力が向上し、業務パフォーマンスが底上げされます。前述のプレゼンティーイズムの改善は、企業全体の生産性向上に直結します。

たとえば、睡眠の質を改善する取り組みや、適度な運動を促進する施策を導入した企業では、従業員のパフォーマンスが向上したという事例が多数報告されています。健康経営は、売上アップや業務効率化と同じく「生産性向上施策」として捉えるべきです。

メリット3:採用力の強化

求職者、特に若い世代は企業選びにおいて「働きやすさ」や「健康への配慮」を重視する傾向が強まっています。健康経営優良法人の認定を取得している企業は、求人市場で差別化を図ることができます。

「健康経営優良法人」のロゴを採用ページや求人票に掲載できることは、中小企業にとって大きなブランディング効果をもたらします。大企業に知名度で劣る中小企業だからこそ、こうした「第三者認定」が採用活動の武器になるのです。

メリット4:保険料の適正化

従業員の健康状態が改善されると、傷病手当金の支給件数や医療費の増加を抑制できます。結果として、健康保険組合の財政改善につながり、将来的な保険料率の引き上げリスクを軽減できる可能性があります。

また、一部の自治体や金融機関では、健康経営優良法人に対して融資金利の優遇や補助金の加点措置を設けているケースもあります。健康経営は、間接的にコスト削減にも貢献するのです。

今日から始められる具体的な取り組み5選

「健康経営の重要性はわかったが、何から始めればいいのかわからない」。そう感じる中小企業の経営者は多いでしょう。ここでは、大きな予算をかけずに今日から始められる具体的な施策を5つ紹介します。

取り組み1:ストレスチェックの実施と活用

労働安全衛生法により、常時50人以上の従業員を雇用する事業場ではストレスチェックの実施が義務化されています。しかし、50人未満の事業場でも自主的にストレスチェックを実施する企業が増えています

重要なのは「実施して終わり」にしないことです。集団分析の結果を職場環境の改善に活かすことが、健康経営の本質です。たとえば、特定の部署でストレスが高い傾向があれば、業務分担の見直しやコミュニケーション機会の創出を検討します。無料で使えるストレスチェックツールも厚生労働省から提供されています。

取り組み2:運動機会の促進

デスクワークが中心の職場では、運動不足が深刻な問題になりがちです。大がかりなジム契約は不要です。小さな仕掛けから始めましょう

  • ラジオ体操の導入:始業前や昼休みに3分間のラジオ体操を実施する
  • ウォーキングイベント:チーム対抗の歩数チャレンジを月1回開催する
  • 階段利用の推奨:エレベーターではなく階段の利用を促すポスターを掲示する
  • スタンディングミーティング:短時間の打ち合わせは立って行う文化をつくる

コストをほとんどかけずに実施できる施策ばかりです。大切なのは「やらされ感」を出さないこと。楽しみながら参加できる仕組みにすることが継続のコツです。

取り組み3:長時間労働の是正

残業時間の削減は、健康経営の土台となる取り組みです。いくら健康施策を導入しても、長時間労働が常態化していては効果は出ません

  • ノー残業デーの設定:週に1日、全社で残業をしない日を設ける
  • 勤怠データの可視化:月間残業時間をリアルタイムで本人と上司が確認できるようにする
  • 業務棚卸し:「やめる・減らす・変える」の観点で既存業務を見直す
  • 会議時間のルール化:会議は原則30分、議題と終了条件を事前に明確化する

残業削減は単なる「時間管理」ではなく、業務プロセスの改善と一体で進めることが重要です。「早く帰れ」と言うだけでは、仕事が減らない限り社員は困るだけです。

取り組み4:メンタルヘルス対策

メンタルヘルス不調による休職・退職は、中小企業にとって深刻な経営リスクです。「予防」の段階で手を打つことが最も重要です。

  • 1on1ミーティングの定期実施:上司と部下が月1回、業務だけでなく体調や悩みについても話す場をつくる
  • 相談窓口の設置:社外の相談窓口(EAP)を導入し、匿名で相談できる環境を整備する
  • 管理職向けラインケア研修:部下の変調に気づき、適切に対応するスキルを管理職に習得させる
  • 休職・復職プログラムの整備:休職者がスムーズに復帰できる仕組みを事前に設計しておく

メンタルヘルス対策で最も大切なのは、「相談しやすい職場風土」をつくることです。制度をつくっても、「弱さを見せたら評価が下がる」という空気があれば、誰も使いません。経営者自身が「困ったら相談してほしい」というメッセージを繰り返し発信することが、組織文化の転換点になります。

取り組み5:健康診断の受診率100%と事後措置の徹底

定期健康診断の実施は企業の法的義務ですが、受診率100%を達成できていない中小企業は少なくありません。まずは全員が受診する体制を整えましょう。

さらに重要なのは「事後措置」です。健康診断の結果、再検査や精密検査が必要な従業員に対して、受診を促し、必要に応じて業務上の配慮を行うことが求められます。「健診を受けておしまい」ではなく、その結果を従業員の健康改善に確実につなげることが、健康経営の実効性を高めます。

健康経営優良法人認定制度の概要と取得の流れ

経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」は、健康経営に取り組む優良な企業を「見える化」するための制度です。中小企業向けの認定区分として「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」があります。

認定のメリット

  • 企業ブランドの向上:認定ロゴを名刺・採用ページ・会社案内に使用できる
  • 採用活動での差別化:「健康に配慮した会社」として求職者にアピールできる
  • 金融機関・自治体からの優遇:融資金利の引き下げや補助金の加点措置を受けられる場合がある
  • 取引先からの信頼向上:サプライチェーン全体で健康経営を推進する大企業との取引で有利になる

申請から認定までの流れ

  1. 加入する健康保険組合等の「健康宣言」事業に参加する(協会けんぽの場合は各支部の健康宣言に参加)
  2. 健康経営の取り組みを実施する(上記で紹介した施策などを実践)
  3. 認定申請書を作成し、日本健康会議の認定事務局に提出する(毎年8月頃から申請受付開始)
  4. 審査を経て認定(翌年3月頃に認定発表)

申請書は、経済産業省のウェブサイトからダウンロードできます。評価項目には「経営理念」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」などがあり、特別に高度な取り組みが求められるわけではありません。基本的な健康施策を着実に実施し、PDCAを回していれば、中小企業でも十分に認定を取得できます。

小さく始める健康経営 --- 3つのステップ

最後に、中小企業が健康経営を「小さく始めて、着実に育てる」ための3ステップを整理します。

ステップ1:現状を把握する(1ヶ月目)

まずは自社の「健康課題」を把握することから始めます。

  • 健康診断の受診率と有所見率を確認する
  • 直近1年間の欠勤日数・休職者数を集計する
  • 従業員にアンケートを実施し、健康に関する悩みや要望を聞く
  • 残業時間の実態を把握する

数値で現状を把握することで、「何から手をつけるべきか」の優先順位が明確になります。

ステップ2:1つの施策を実行する(2〜3ヶ月目)

現状把握の結果を踏まえ、最もインパクトが大きく、かつ実行しやすい施策を1つだけ選んで実行します。最初から複数の施策を同時に始めると、どれも中途半端になりがちです。

たとえば「残業時間が多い」が課題であれば、まず「ノー残業デー」を週1回導入する。「メンタルヘルスが心配」であれば、月1回の1on1ミーティングを始める。小さくても確実に実行し、効果を実感できる成功体験をつくることが大切です。

ステップ3:効果を測定し、次の施策を追加する(4ヶ月目以降)

施策を実行したら、必ず効果を測定します。

  • 残業時間は減ったか
  • 欠勤日数に変化はあるか
  • 従業員の満足度は向上したか
  • 離職率に変化は見られるか

数値で効果を確認し、うまくいった施策は定着させ、効果が薄い場合は改善します。1つの施策が軌道に乗ったら、次の施策を追加する。この繰り返しで、健康経営は自然と組織に根づいていきます。

まとめ:健康経営は「投資」である

健康経営は、福利厚生の延長ではありません。従業員の健康という「人的資本」に投資し、離職率低下・生産性向上・採用力強化というリターンを得る経営戦略です。

もう一度、ポイントを整理します。

  1. 健康経営は経済産業省が推進する経営戦略であり、福利厚生ではない
  2. 中小企業にこそメリットが大きい。一人の離脱が組織に与えるインパクトが大きいからこそ、健康への投資が効く
  3. 大きな予算は不要。ストレスチェック、ラジオ体操、ノー残業デーなど、今日から始められる施策がある
  4. 健康経営優良法人認定は、中小企業の採用力・ブランド力を高める有効な手段
  5. 小さく始めて、PDCAを回す。完璧を目指すのではなく、1つずつ着実に積み上げる

「社員の健康に投資する余裕がない」と感じるかもしれません。しかし、社員が健康でなければ、企業の成長もありません。健康経営は、コストではなく投資です。その投資は、離職率の低下、生産性の向上、そして組織全体の活力という形で、必ずリターンをもたらします。

株式会社Sei San Seiでは、生産性向上の観点から、組織づくりや業務改善のご支援を行っています。健康経営と生産性向上は表裏一体です。従業員が心身ともに健康で、いきいきと働ける組織は、自然と生産性が高まります。「何から始めればいいかわからない」という方も、まずはお気軽にご相談ください

ブログ一覧へ戻る

最新記事

まずはお気軽にご相談ください

無料相談・資料請求を受け付けております

お問い合わせはこちら