パート・有期雇用ルールが2026年10月に改正|労働条件通知書の追加明示・同一労働同一賃金ガイドライン見直しで中小企業がすべき準備
2026年10月1日、パートタイム・有期雇用労働者の待遇に関するルールが変わります。厚生労働省は8月に入って改正内容の解説を公式に発信しており、社会保険労務士の間でも対応準備が本格化しています。同じ10月にはカスタマーハラスメント対策の義務化や社会保険の適用拡大(106万円の壁の撤廃)も施行されるため、人事・労務担当者にとっては「10月施行3点セット」の最後の1つと言えるでしょう。
この改正は、大企業だけの話ではありません。パートタイム・有期雇用労働法は企業規模を問わず適用され、パート比率の高い小売・飲食・介護・製造業では、日常の雇い入れ実務そのものが変わります。本記事では、改正の3つのポイントを整理したうえで、中小企業が施行日までに何をどの順番で準備すべきかを解説します。
改正の全体像:「同一労働同一賃金」を実務で機能させるための見直し
今回の改正の目的は、2020年(中小企業は2021年)に全面施行された「同一労働同一賃金」のルールを、現場でより実効性のあるものにすることです。パートや有期雇用の従業員が「なぜ自分は正社員と待遇が違うのか」を知り、企業が説明責任を果たせる状態を、制度として後押しする内容になっています。
厚生労働省が示している改正ポイントは、大きく次の3つです。
- ポイント1:雇い入れ時の労働条件通知書に「待遇差の説明を求めることができる」旨を明示する
- ポイント2:同一労働同一賃金ガイドラインを見直し、賞与・退職手当・各種手当・福利厚生の考え方を明確化する
- ポイント3:企業が待遇差を説明する際の方法を具体的に定める
新しい義務が突然増えるというより、「これまで曖昧だった部分の答えが示された」改正と捉えると理解しやすいでしょう。ただし、答えが示された以上、対応していない企業は明確に「未対応」と判断されることになります。
ポイント1:労働条件通知書に追加される明示事項
パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際、企業は労働基準法上の労働条件に加えて、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4項目を書面等で明示する義務があります。2026年10月からはここに、「待遇の相違の内容および理由等について説明を求めることができる」旨が加わります。
実務で影響が出るのは、次の3か所です。
- 労働条件通知書・雇用契約書のひな形:厚生労働省が公開している改正後のモデル様式に合わせて文言を追加する
- クラウド人事・労務システムのテンプレート:システム側のアップデートを確認し、自社でカスタマイズしている場合は手動で反映する
- 契約更新時の書面:有期契約の更新時にも明示が必要なため、更新手続きのフローに組み込む
この明示は「説明を求めてよい」と従業員に伝える行為でもあります。つまり、通知書を渡した瞬間から、実際に説明を求められる可能性が高まるということです。ポイント3の説明体制と必ずセットで準備してください。
ポイント2:同一労働同一賃金ガイドラインの見直し
ガイドラインの見直しは、これまでの裁判例の蓄積を踏まえて、待遇ごとの考え方をより具体的に示したものです。特に中小企業で影響が大きいのは、次の3項目です。
- 家族手当:相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の手当を支給しなければならない
- 住宅手当:正社員と同一の転居を伴う配置転換があるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の手当を支給しなければならない
- 夏季・冬季休暇:パート・有期雇用労働者にも、正社員と同一の夏季・冬季休暇を付与しなければならない
ここで重要なのは、「パートには手当を出さない」という慣行そのものが直ちに違法になるわけではなく、支給しない理由が待遇の性質・目的に照らして説明できるかが問われる点です。例えば家族手当を「生活費補助」として正社員に支給しているなら、長期勤続が見込まれるパートに支給しない理由は説明しにくくなります。一方、住宅手当を「転勤に伴う住居費の負担補填」として設計しているなら、転勤のないパートに支給しないことには合理性があります。
自社の手当を一つずつ「何のために出しているのか」に立ち返って棚卸しし、ガイドラインの考え方と整合しているかを確認する作業が必要です。2026年度の最低賃金引き上げとも重なるため、人件費への影響は早めに試算しておきましょう。
ポイント3:待遇差の説明方法が明確化
パート・有期雇用労働者から説明を求められた場合、企業には正社員との待遇差の内容と理由を説明する義務があります。改正後はその方法として、次のいずれかが求められます。
- 資料を活用し、口頭により説明する
- 説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい内容の資料を交付する
「口頭で適当に答える」「就業規則を見ておいてと言う」といった対応では要件を満たしません。実務上は、職種・雇用区分ごとの「待遇差説明シート」をあらかじめ用意しておくのが最も確実です。比較対象となる正社員の区分、待遇ごとの相違の内容、その理由(職務内容、責任の程度、配置転換の範囲、勤続への期待など)を一覧化しておけば、担当者が誰でも同じ品質で説明できます。
なお、説明を求めたことを理由に解雇や契約不更新などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。管理職や店舗責任者にもこの点を周知しておきましょう。
中小企業の準備ステップ:施行までの約1か月で何をするか
施行まで時間は限られています。優先順位を付けて、次の順番で進めることをおすすめします。
- ステップ1(今すぐ):労働条件通知書・雇用契約書のひな形を改正後のモデル様式に合わせて更新し、人事システムのテンプレートも差し替える
- ステップ2(9月前半):正社員とパート・有期雇用の待遇一覧表を作成し、手当・賞与・退職金・休暇ごとに「相違の有無」と「理由」を書き出す
- ステップ3(9月中):ガイドラインの考え方と整合しない待遇があれば、見直しの方針と時期を決める(人件費試算を含む)
- ステップ4(9月後半):職種別の待遇差説明シートを作成し、相談窓口の担当者と現場責任者に説明の手順を共有する
- ステップ5(10月以降):新規雇い入れ・契約更新時に新様式を使用し、説明を求められた記録を残す
ステップ2の待遇一覧表は、年収の壁の制度変更や社会保険の適用拡大に伴うパートの働き方の見直しにも使えます。10月施行の複数の改正をまとめて棚卸しする良い機会と捉えて、一度に整理してしまうのが効率的です。
まとめ:通知書の様式更新から着手し、「説明できる待遇」を整える
- 2026年10月1日から、パート・有期雇用労働者の労働条件通知書に「待遇差の説明を求めることができる」旨の明示が必要になる
- 同一労働同一賃金ガイドラインが見直され、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇などの考え方が明確化された
- 待遇差の説明は「資料を使って口頭で」または「すべてを記載した資料の交付」のいずれかで行う必要がある
- 企業規模を問わず適用され、中小企業向けの猶予はない。パート比率の高い業種ほど影響が大きい
- 準備は通知書の様式更新→待遇一覧表の作成→手当の見直し→説明シートの整備の順で進める
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よくある質問
Q1. 2026年10月のパート・有期雇用ルール改正は、いつ雇い入れた人から対象になりますか?
労働条件通知書への追加明示は、2026年10月1日以降に新たに雇い入れる、または契約を更新するパートタイム・有期雇用労働者から必要になります。ただし同一労働同一賃金ガイドラインの見直しや待遇差の説明方法の明確化は、既に在籍している従業員との関係にも影響します。施行日を境に線引きするのではなく、既存従業員の待遇や規程も施行前に見直しておくことが安全です。
Q2. 労働条件通知書には具体的に何を追加すればよいですか?
従来から必要だった「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4項目に加え、「正社員との待遇の相違の内容や理由について説明を求めることができる」旨を明示する必要があります。厚生労働省が改正後のモデル様式を公開しているため、自社の通知書テンプレートをそれに合わせて更新し、雇用契約書やクラウド人事システムのひな形も忘れずに差し替えましょう。
Q3. 同一労働同一賃金ガイドラインの見直しで、家族手当や住宅手当はパートにも支給が必要になりますか?
一律に全員へ支給が必要になるわけではありません。見直し後のガイドラインでは、家族手当は「相応に継続的な勤務が見込まれる」パート・有期雇用労働者に、住宅手当は「正社員と同一の転居を伴う配置転換がある」パート・有期雇用労働者に、正社員と同一の手当を支給しなければならないと整理されました。支給の有無を決めている理由が、この考え方と整合しているかを確認する必要があります。
Q4. パート従業員から待遇差の説明を求められたら、どう説明すればよいですか?
改正後は、「資料を活用して口頭で説明する」か「説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付する」のいずれかの方法で説明することが求められます。比較対象となる正社員、待遇差の内容、その理由(職務内容・責任・配置転換の範囲など)を整理した説明シートを職種ごとにあらかじめ用意しておくと、求められた際に慌てず対応できます。説明を求めたことを理由に不利益な取扱いをすることは禁止されています。
Q5. 従業員数が少ない中小企業でも対応は必須ですか?
必須です。パートタイム・有期雇用労働法は企業規模を問わず適用され、今回の改正にも中小企業向けの猶予は設けられていません。パート比率の高い小売・飲食・介護・製造などの業種ほど影響が大きく、同じ10月には社会保険の適用拡大やカスハラ対策の義務化も重なります。優先順位を付けて通知書の様式更新から着手し、手当・休暇の見直しは専門家と相談しながら進めるのが現実的です。