年収の壁はどうなった?2026年の最新制度と中小企業の実務対応
「103万円」「106万円」「130万円」——パート・アルバイトの働き方を左右してきた年収の壁が、2025年から2026年にかけて大きく再編されています。税金の壁は103万円から123万円へ引き上げられ、社会保険の106万円の壁は2026年10月に撤廃される予定です。
制度が変わる過渡期のいま、「結局いくらまで働けるのか」という従業員からの質問に答えられず困っている経営者・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、2026年8月時点の年収の壁の全体像と、中小企業が今すべき実務対応を整理します。
年収の壁とは——「税金の壁」と「社会保険の壁」の2種類
年収の壁とは、パート・アルバイトなどの年収が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が生じ、手取りが減ることがあるボーダーラインの通称です。壁は大きく2種類に分かれます。
- 税金の壁——本人に所得税がかかり始めるライン、配偶者控除・扶養控除の対象から外れるラインなど。超えても手取りが急減するわけではなく、超えた分に段階的に課税される仕組みです
- 社会保険の壁——勤務先の厚生年金・健康保険に加入する義務が生じるライン(いわゆる106万円の壁)と、配偶者などの扶養から外れるライン(130万円の壁)。こちらは超えた瞬間に保険料負担が発生するため、手取りへの影響が大きく、就業調整の主な原因になってきました
従業員の「働き控え」を招いてきたのは主に社会保険の壁のほうです。そして今回の制度改正の中心も、この社会保険の壁にあります。
【社会保険】106万円の壁は2026年10月に撤廃——実質「週20時間の壁」へ
2025年6月に成立した年金制度改正法により、短時間労働者が社会保険に加入する要件のうち、賃金要件(月額8.8万円以上=年収約106万円)が2026年10月に撤廃される予定です。
撤廃後の加入判定は、週の所定労働時間が20時間以上かどうかが中心になります。つまり「年収106万円の壁」は消え、実質的に「週20時間の壁」に置き換わるということです。時給が上がり続けるなか、週20時間働くと年収106万円を下回るケースがほとんどなくなったことが背景にあります。実際、2026年度の最低賃金は全国加重平均1176円まで上がっており、賃金要件は形骸化していました。
さらに、現在は従業員数51人以上の企業が対象となっている企業規模要件も、2027年10月から段階的に撤廃され、最終的にはすべての企業が適用対象になる予定です。小規模な企業ほど「まだ先の話」と捉えがちですが、数年以内に自社にも確実に及ぶ変化として準備しておく必要があります。
一方、配偶者などの扶養(被扶養者認定)から外れる130万円の壁は当面残ります。ただし、繁忙期の残業などで一時的に130万円を超えた場合には、事業主の証明で引き続き扶養にとどまれる仕組みが用意されています。
【税金】103万円の壁は123万円へ——非課税ラインも引き上げ
税金の壁も、税制改正で大きく動きました。基礎控除等の引き上げにより、配偶者控除や扶養控除の対象となる給与収入の目安は103万円から123万円へ引き上げられました。あわせて、一定の給与収入以下の場合に所得税がかかり始めるラインは160万円程度まで拡大しています。
また、大学生年代(19〜22歳)の子どもについては、年収150万円程度までは親の税負担への影響を抑える特別控除が新設され、「子どもがアルバイトで稼ぎすぎると親の税金が急に増える」という問題も緩和されました。
重要なのは、税金の壁は超えても手取りが急減しないという点です。超えた分に段階的に課税されるだけなので、「123万円を1円でも超えたら損」ということはありません。従業員への説明では、この点の誤解を解くことが働き控え解消の第一歩になります。
中小企業への影響——コスト増と人手確保の両面で備える
106万円の壁の撤廃と企業規模要件の段階的撤廃は、中小企業に2つの面で影響します。
第一に社会保険料コストの増加です。保険料は労使折半のため、加入者が1人増えるごとに会社負担も増えます。目安として、年収100万円前後の従業員が1人加入すると、会社負担は年間15万円程度増えるケースがあります。パート比率の高い小売・飲食・介護などの業種では、対象人数によっては年間数百万円規模のコスト増になり得ます。
第二にシフト・人員計画への影響です。「週20時間の壁」を意識して勤務時間を20時間未満に抑えたいと考える従業員が出てくると、1人あたりの勤務時間が短くなり、必要な頭数が増えます。人手不足倒産が過去最多を更新するなかで、シフトの穴を埋める採用は年々難しくなっており、「働き控えを前提にしたシフト設計」は現実的ではなくなりつつあります。
むしろ発想を変えれば、これは「壁を気にせず働きたい人」を確保するチャンスでもあります。社会保険に加入すれば、従業員本人には将来の厚生年金の上乗せ、傷病手当金や出産手当金といった保障が加わります。加入を前向きに捉えてもらえる説明と処遇を用意できた企業が、パート採用市場で選ばれる側に回ります。
企業が今すべき5つの準備
1. パート・アルバイトの労働時間と賃金を棚卸しする
まず、従業員ごとの週所定労働時間・月収・扶養状況を一覧化し、2026年10月以降に加入対象となり得る人が何人いるかを把握します。週20時間前後で働いている人が最重要のケアの対象です。
2. 社会保険料の会社負担をシミュレーションする
対象者が全員加入した場合の会社負担増を試算し、資金計画に織り込みます。ベースアップや最低賃金引き上げと同時期に重なるため、人件費全体で見通しを立てておくことが重要です。国のキャリアアップ助成金など支援策の活用余地も確認しておきましょう。
3. 従業員への説明会・個別面談を実施する
年収の壁の制度変更は複雑で、従業員の多くは「手取りが減るのでは」という不安だけを抱えています。税金の壁は超えても急に損しないこと、社会保険加入には保障のメリットがあることを丁寧に説明し、一人ひとりの希望する働き方を確認します。この面談を怠ると、優秀なパート従業員が「壁のない職場」へ流出しかねません。
4. シフト・人員計画を見直す
週20時間未満に抑えたい人と、壁を気にせず長く働きたい人を分けて、シフトを再設計します。長く働きたい人には時間数を集約してスキルアップと処遇向上の道筋を示し、「短時間×多人数」から「安定勤務×少数精鋭」への転換も検討します。
5. 「壁を越えて働きたい」と思える職場をつくる
最終的に働き控えを解消するのは、制度の説明ではなく働きがいと処遇です。時給・評価制度の見直し、パートから正社員への登用ルートの整備、業務の効率化による負担軽減など、「もっと働きたい」と思える環境づくりが、制度改正への最良の備えになります。労働基準法改正の議論も続いており、雇用ルール全体の変化に対応できる体制を整えておきましょう。
まとめ:年収の壁の再編は「働き方の選択肢」を広げる転機
- 社会保険の106万円の壁(賃金要件)は2026年10月に撤廃予定。今後は週20時間以上が加入判定の中心になる
- 企業規模要件も2027年10月から段階的に撤廃され、最終的に全企業が適用対象になる
- 税金の壁は103万円から123万円へ。所得税の非課税ラインは160万円程度まで拡大し、超えても手取りは急減しない
- 130万円の壁(扶養認定)は当面残るが、一時的な超過には事業主証明の救済がある
- 企業は対象者の棚卸し・コスト試算・従業員説明・シフト再設計を早めに進めることが重要
年収の壁の再編は、コスト増の側面だけを見れば負担ですが、「壁を気にせず働ける職場」への転換を進める企業にとっては、人材確保の追い風にもなります。制度施行を待たず、いまから準備を始めましょう。
株式会社Sei San Seiでは、AI採用代行「RPaaS」や人材紹介「MINORI Agent」を通じて、中小企業の人材確保と定着をご支援しています。パート・アルバイト採用の強化や、制度変更をふまえた採用戦略の見直しについても、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 年収の壁とは何ですか?
年収の壁とは、パート・アルバイトなどの年収が一定額を超えると、税金や社会保険料の負担が発生・増加し、手取りが減ることがあるボーダーラインの通称です。所得税や配偶者控除に関わる「税金の壁」と、社会保険への加入義務や扶養から外れる基準となる「社会保険の壁」の大きく2種類があります。
Q2. 106万円の壁はいつなくなりますか?
2025年6月に成立した年金制度改正法により、社会保険の加入要件のうち賃金要件(月額8.8万円以上、いわゆる106万円の壁)は2026年10月に撤廃される予定です。撤廃後は週20時間以上働くかどうかが加入判定の中心となり、実質的に「週20時間の壁」へと変わります。
Q3. 130万円の壁はどうなりますか?
配偶者などの扶養(被扶養者認定)から外れる130万円の壁は、当面残ります。ただし、繁忙期の残業などで一時的に130万円を超えた場合には、事業主の証明により引き続き扶養にとどまれる仕組みが用意されています。企業規模要件の段階的撤廃が進むと、週20時間以上働く人は130万円未満でも自社の社会保険に加入するケースが増えていきます。
Q4. 103万円の壁はどう変わりましたか?
税制改正により、所得税の基礎控除等が引き上げられ、扶養や配偶者控除の対象となる給与収入の目安は103万円から123万円に引き上げられました。また、一定の給与収入以下の場合、所得税がかかり始めるラインは160万円程度まで引き上げられています。大学生年代の子どもについては、150万円程度まで親の税負担への影響を抑える特別控除も設けられました。
Q5. 106万円の壁の撤廃で企業の負担はどうなりますか?
社会保険の加入者が増えると、保険料は労使折半のため会社負担も増加します。目安として、年収100万円前後の従業員が1人加入すると、会社負担は年間15万円程度増えるケースがあります。対象となり得るパート・アルバイトの人数を洗い出し、早めにコストを試算しておくことが重要です。