退職代行を使われたら?企業側の正しい対応——初動の確認事項・NG対応・使われない組織づくり
ある朝、聞いたことのない事業者から「御社の従業員○○さんの退職についてご連絡です」という電話が入る——退職代行サービスの利用が広がるなか、こうした経験をする中小企業が増えています。突然のことに動揺し、「本人と直接話させろ」「そんな辞め方は認めない」と反応してしまいたくなりますが、初動の対応を誤ると、退職そのものは止められないうえに、法的トラブルや職場の動揺という二次被害だけが残ります。
本記事では、退職代行から連絡が来たときに企業側が確認すべきこと、やってはいけないNG対応、そしてそもそも退職代行を使われない組織をつくるための実践策を、人事担当者・経営者向けに解説します。
退職代行とは——利用が広がる背景と連休明けのリスク
退職代行とは、本人に代わって退職の意思を勤務先に伝えるサービスです。数万円程度の料金で利用でき、「上司に言い出せない」「引き止めが怖い」「もう出社したくない」という心理的ハードルを代わりに越えてくれる存在として、若手を中心に利用が定着しつつあります。
特に利用が増えるのが、大型連休明けや夏季休暇明けです。休暇中に自分の働き方を見つめ直し、「休み明けにもう一度あの職場へ戻る」ことへの抵抗感が引き金になるためです。お盆休みを控えたこの時期は、企業側にとってもリスクが高まるタイミングと言えます。
まず押さえておきたいのは、退職代行の連絡には3つの類型があり、どの類型かによって会社側の応じ方が変わるという点です。
- 民間の退職代行業者:本人の退職意思を伝える「使者」としての連絡のみが可能。退職日や未払い賃金などの交渉はできない(弁護士法72条の非弁行為にあたるおそれがあるため)
- 労働組合型(ユニオン型):団体交渉権に基づき、退職条件の交渉が可能
- 弁護士:退職意思の伝達から条件交渉、損害賠償等の法的対応まで代理可能
退職代行から連絡が来たら——企業側の初動5ステップ
連絡を受けたら、感情的に反応せず、次の順序で事実確認と手続きを進めます。
- ステップ1:連絡元の確認——事業者名・所在地・連絡先を控え、民間業者か、労働組合か、弁護士かを確認する。折り返しの連絡窓口を一本化する
- ステップ2:本人の意思確認——委任状や本人名義の退職届の提出を求め、本人の依頼であることを書面で確認する。なりすましや退職強要の可能性を排除するためにも、この確認は省略しない
- ステップ3:退職日・有給休暇の整理——就業規則と照らし合わせ、退職日、残っている年次有給休暇の扱い、最終出社日(即日欠勤の場合は欠勤扱いの範囲)を整理する
- ステップ4:貸与物・引き継ぎの調整——PC・社員証・制服などの返却方法(郵送可とするのが現実的)と、業務引き継ぎ資料の提出を、代行経由で依頼する
- ステップ5:手続きの完了——退職届の受理後、社会保険の資格喪失手続き、離職票・源泉徴収票の交付を速やかに行う
ポイントは、やり取りの記録をすべて残すことです。電話の内容はメモに起こし、可能な限り書面やメールでのやり取りに切り替えると、後日「言った・言わない」の争いを防げます。対応に迷う場合や、未払い残業代の請求など交渉事項が含まれる場合は、早めに社会保険労務士や弁護士に相談しましょう。
やってはいけないNG対応4つ
退職代行への対応で会社側がリスクを負うのは、多くの場合、次のようなNG対応をしてしまったときです。
- NG1:本人への執拗な直接連絡——「本人と話さないと認めない」と電話やメッセージを繰り返すのは逆効果。本人が接触を拒んでいる状況での執拗な連絡は、退職妨害やハラスメントと受け取られかねません
- NG2:退職を認めない・引き延ばす——期間の定めのない雇用契約では、民法627条により退職の申し入れから2週間で雇用契約は終了します。会社の承認は不要であり、拒否しても退職は止められません
- NG3:損害賠償や違約金で脅す——「突然辞めるなら賠償請求する」といった発言は、退職の自由を侵害する言動と評価されるリスクがあります。そもそも違約金の定めは労働基準法16条で禁止されています
- NG4:離職票を出さない・手続きを遅らせる——嫌がらせ的に離職票や源泉徴収票の交付を遅らせると、法令違反を問われるのは会社側です。手続きは淡々と、速やかに行いましょう
要するに、退職そのものは受け入れ、手続きは粛々と進めるのが最も傷の浅い対応です。会社が争う実益はほとんどなく、対応の巧拙は残った社員も見ています。
退職代行を使われない組織をつくる——根本原因は「言い出せなさ」
退職代行を使われたという事実は、本人の問題である以上に、「退職を直接言い出せない職場だった」というシグナルです。再発を防ぐには、次の3つの観点で組織を見直すことが有効です。
1. 日常的に本音を話せる関係をつくる
退職の決断は、ある日突然生まれるものではありません。不満や不安が言えないまま蓄積し、限界に達したときに代行という手段が選ばれます。1on1で部下の本音を引き出す仕組みやエンゲージメントサーベイを通じて、不調のサインを早期に把握できる体制をつくりましょう。
2. 退職の申し出に対する対応を変える
過去に退職を申し出た社員が強く引き止められたり、態度を急変させられたりした様子を見ていれば、次の社員は直接言うことを避けます。退職の意思表示には感情的にならず、手続きを明確に案内する——この当たり前の対応が浸透しているだけで、代行を使う理由の多くは消えます。退職手続きの流れを就業規則やマニュアルで明文化しておくことも有効です。
3. 入社直後の定着支援を強化する
退職代行の利用者には入社から日の浅い若手が多いとされます。オンボーディングの設計や、中途入社者の早期離職対策で入社直後のつまずきを減らすことが、結果として退職代行の予防にもつながります。離職率を下げる組織づくりとあわせて、採用から定着までを一連の流れとして見直してみてください。
まとめ:慌てず、争わず、組織を見直すきっかけに
- 退職代行の連絡が来たら、連絡元の類型(民間・労組・弁護士)と本人の意思をまず確認する
- 民法627条により、退職の申し入れから2週間で雇用契約は終了する。会社の承認は不要で、拒否はできない
- 本人への執拗な連絡、損害賠償による脅し、離職票の交付遅延は会社側のリスクになる
- 手続きは淡々と進め、やり取りの記録を残す。交渉事項があれば社労士・弁護士へ相談する
- 退職代行は「言い出せない職場」のシグナル。1on1・オンボーディング・退職手続きの明文化で根本原因に手を打つ
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よくある質問
Q1. 退職代行から連絡が来たら、まず何をすべきですか?
まず落ち着いて、連絡してきた事業者の名称・連絡先と、本人が依頼した事実を確認します。委任状や本人からの退職届の提出を求め、本人の意思であることを確かめたうえで、退職日・有給休暇の扱い・貸与物の返却方法を整理して回答します。感情的に拒否したり、本人へ執拗に直接連絡したりするのは避けましょう。
Q2. 退職代行による退職を会社が拒否することはできますか?
原則できません。期間の定めのない雇用契約では、民法627条により労働者は退職を申し入れてから2週間が経過すれば退職できます。会社の承認は退職の要件ではないため、代行経由であっても本人の退職意思が確認できれば、退職手続きを進める必要があります。拒否や引き延ばしはトラブルを大きくするだけです。
Q3. 民間の退職代行業者と弁護士・労働組合の違いは何ですか?
民間業者ができるのは本人の退職意思を伝える使者としての連絡までで、退職条件の交渉はできません。未払い賃金や退職日の調整など交渉を伴う対応ができるのは、弁護士か、団体交渉権を持つ労働組合です。連絡元がどの類型かで会社側の応じ方が変わるため、初動で必ず確認しましょう。
Q4. 退職代行で辞めた社員に損害賠償を請求できますか?
退職したこと自体を理由とする損害賠償請求は、退職の自由が法律で保障されているため基本的に認められません。また、あらかじめ違約金を定めることは労働基準法16条で禁止されています。引き継ぎ不足への不満があっても、賠償を口にして退職を妨げる言動は逆に会社側のリスクになります。
Q5. 退職代行を使われないためには何を変えればよいですか?
退職代行が使われる根本原因は、退職を言い出せない・言っても引き止められるという心理的なハードルです。1on1などで日常的に本音を話せる関係をつくること、退職の申し出に対して感情的な引き止めをしないこと、退職手続きのルールを明文化して誰でも分かるようにしておくことが、最も効果的な予防策です。