働き方改革 2026.09.02

ストレスチェック義務化|50人未満の事業場も2028年4月から対象に、中小企業が今から準備すべきこと

小規模な職場でのストレスチェックと従業員の心の健康を表すイメージ

「うちは従業員30人だから、ストレスチェックは関係ない」——そう考えている経営者の方は、まだ多いのではないでしょうか。しかし、その前提は2028年4月に変わります。改正労働安全衛生法により、従業員50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務化されることが、2026年6月の政令公布で正式に確定しました。

施行まで1年半あまり。「まだ先の話」に見えますが、外部委託先の選定、社内ルールの整備、従業員への説明など、準備には相応の時間がかかります。この記事では、改正で何がどう変わるのか、なぜ小規模事業場にまで義務が広がるのか、そして中小企業が今から無理なく進められる準備の手順を、厚生労働省の一次情報をもとに整理します。

ストレスチェック義務化の改正内容|何がどう変わるのか

ストレスチェック制度は2015年12月に始まった仕組みで、従業員が自分のストレス状態を質問票で確認し、高ストレスの人には医師の面接指導を受ける機会を用意するものです。これまでは常時50人以上の労働者を使用する事業場のみが実施義務の対象で、50人未満は「努力義務」にとどまっていました。

今回の改正の流れは次のとおりです。

  • 2025年5月14日:「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が公布され、50人未満の事業場への義務拡大が決定
  • 2026年2月:厚生労働省が「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表
  • 2026年6月10日:施行期日を定める政令が公布され、施行日は2028年4月1日に確定
  • 2028年4月1日:すべての事業場でストレスチェックの実施が義務に

つまり2028年4月以降は、従業員が数人の会社であっても、原則として年1回以上のストレスチェックを実施する義務を負うことになります。ここで注意したいのは、「50人」の単位が会社全体ではなく「事業場」ごとに数える点です。本社と支店を合わせて60人でも、それぞれの事業場が50人未満なら、これまでは努力義務でした。改正後はこうした事業場もすべて対象になります。

なぜ50人未満にも義務化されるのか|背景にある数字

努力義務から義務へと踏み込む背景には、2つの数字があります。

1. 小規模事業場の実施率が低い

厚生労働省の労働安全衛生調査によると、ストレスチェックを実施している事業場の割合は、50人以上では8割を超える一方、50人未満では3割程度にとどまっています。日本の事業場の大半は50人未満であり、そこで働く人の多くがメンタルヘルスの一次予防の仕組みから取り残されている状態でした。

2. 精神障害の労災が過去最多を更新し続けている

厚生労働省が2026年7月15日に公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する労災の請求件数が4,958件(前年度比1,178件増)、支給決定件数が1,082件となり、いずれも過去最多を更新しました。支給決定の原因(出来事別)で最も多いのは「上司等からのパワーハラスメント」(222件)で、「顧客からの迷惑行為」と「セクシュアルハラスメント」(各127件)、「仕事内容・仕事量の大きな変化」(113件)が続きます。

請求件数が1年で1,000件以上も増えたのは、メンタル不調を労災として申請することへの心理的ハードルが下がり、社会全体の意識が変わってきたことの表れでもあります。カスハラ対策の義務化就活セクハラ防止措置など、2026年10月に施行される一連の法改正と同じ文脈で、職場のメンタルヘルス対策は「大企業の話」から「すべての事業場の義務」へと位置づけが変わりつつあります。

50人未満の事業場に求められる実施内容と負担軽減措置

「産業医もいない小さな会社で、本当に実施できるのか」という不安は当然です。厚生労働省もその点を踏まえ、小規模事業場向けには次のような負担軽減の方針を示しています。

基本的に求められること

  • 年1回以上のストレスチェック実施:厚労省の標準的な質問票(職業性ストレス簡易調査票、57項目または簡略版23項目)を使うのが一般的
  • 実施者の確保:医師・保健師、または所定の研修を修了した看護師・精神保健福祉士・公認心理師などが実施者となる。多くの中小企業は外部の実施機関に委託する形になる
  • 結果の本人通知と守秘:結果は本人に直接通知し、本人の同意なく会社が個人結果を見ることはできない
  • 高ストレス者への面接指導:高ストレスと判定され本人が申し出た場合、医師による面接指導を実施し、その結果をもとに就業上の配慮を検討する
  • 記録の保管:実施日・実施者・受検者数などの記録を適切に保管する

50人未満向けの負担軽減措置

  • 産業医の選任義務はない:改正後も、50人未満の事業場に産業医の選任義務は生じない
  • 労働基準監督署への報告義務はない:50人以上の事業場に課されている実施状況の報告は、50人未満には課さない方針
  • 地域産業保健センター(地さんぽ)を無料で活用できる:全国の地域産業保健センターは、50人未満の事業場を対象に、高ストレス者への医師の面接指導や健康相談などの産業保健サービスを無料で提供している
  • 集団分析は努力義務:部署ごとの傾向を分析する集団分析は、現時点では努力義務にとどまる

なお、ストレスチェックの未実施そのものに直接の罰則はありません。ただし義務化後に実施していなければ行政指導の対象になり得るほか、従業員がメンタル不調で休職・退職した際に「会社は安全配慮義務を果たしていたか」が問われる場面で、明確に不利になります。罰則の有無よりも、離職防止と労災リスク低減のための制度と捉えるほうが実態に合っています。

中小企業が今から進める準備|5つのステップ

施行までの期間を逆算すると、2027年度中には一度「試行」を終えておくのが理想です。次の5ステップで進めると、無理なく形にできます。

  • ステップ1:厚労省マニュアルを読み、方針を決める:2026年2月公表の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」に目を通し、外部委託か自社実施かを決める。産業保健スタッフのいない会社は外部委託が現実的
  • ステップ2:委託先・相談先を確保する:健康診断の委託先が実施サービスを提供しているケースは多い。まずはそこと、管轄の地域産業保健センターに相談する。オンラインで受検から結果通知まで完結するサービスも増えている
  • ステップ3:社内ルールを決めて周知する:実施時期、対象者(パート・アルバイトの扱いを含む)、結果の取り扱い、面接指導の申し出方法を決め、衛生委員会や職場の話し合いの場で共有したうえで従業員に説明する。「結果を会社が見て評価に使うのでは」という不安を先に解消することが受検率を左右する
  • ステップ4:一度試行して運用を確認する:義務化前に1回実施してみると、案内文の分かりやすさ、受検率、面接指導の申し出への対応など、本番前に直すべき点が見える
  • ステップ5:結果を職場改善につなげる仕組みを作る:集団分析は努力義務だが、部署ごとの傾向を見て業務量や人間関係の課題を早期に拾う仕組みにすると、制度が「やって終わり」にならない

この準備は、労働基準法改正に向けた準備仕事と介護の両立支援と同じく、「法改正への対応」を入り口に職場環境を見直す機会でもあります。一つひとつは小さな整備でも、まとめて取り組むことで採用力・定着率に効いてきます。

ストレスチェックを「義務」で終わらせない|職場改善と生産性

ストレスチェックの本来の目的は、不調者を見つけることではなく、不調になる前に職場の負荷を下げることにあります。高ストレスの原因として多いのは、慢性的な長時間労働、属人化した業務による特定の人への負荷集中、上司と部下のコミュニケーション不足です。これらは健康経営の課題であると同時に、生産性の課題そのものでもあります。

たとえば、特定の担当者にしかできない業務が多い職場は、その人が休めない・相談できない状態になりやすく、高ストレスにつながります。業務の標準化やシステム化で「誰でも回せる状態」を作ることは、メンタルヘルス対策であると同時に、業務効率の改善でもあります。ストレスチェックの結果を、こうした職場改善の優先順位づけに使えるかどうかが、制度の価値を決めます。

また、静かな退職に代表されるように、目に見えるトラブルは起きていなくても、従業員の意欲が静かに下がっている職場は少なくありません。年1回のストレスチェックは、経営者が普段の会話では拾えない「職場の空気」を定点観測する数少ない機会です。義務だからやるのではなく、離職を防ぐための経営ツールとして活用する視点が、中小企業ほど重要になります。

まとめ:2028年4月に向けて、2027年度中の試行を目標に

  • 改正労働安全衛生法により、2028年4月1日から従業員50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務化される(2026年6月10日公布の政令で確定)
  • 背景には50人未満の実施率が3割程度にとどまる現状と、精神障害の労災請求が令和7年度に4,958件と過去最多を更新し続けている実態がある
  • 50人未満には産業医選任義務・労基署への報告義務はなく、地域産業保健センターの無料サービスや外部委託で対応できる
  • 準備は「マニュアル確認→委託先確保→社内ルール→試行→職場改善」の5ステップ。2027年度中の試行が現実的な目標
  • 罰則対応ではなく、離職防止と生産性向上のための経営ツールとして位置づけることが中小企業には重要

株式会社Sei San Seiでは、管理職向けの部下対応やコミュニケーション研修「MINORI Learning」と、属人化した業務を標準化・自動化して現場の負荷を下げる業務改善支援を通じて、中小企業の職場環境づくりをご支援しています。「法改正への対応をきっかけに、職場の負荷そのものを見直したい」という段階からでも、お気軽にご相談ください

よくある質問

Q1. 50人未満の事業場でストレスチェックが義務になるのはいつからですか?

2028年4月1日からです。2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法で50人未満の事業場への義務化が決まり、2026年6月10日に公布された政令で施行日が2028年4月1日に確定しました。それまでは努力義務のままですが、制度設計や外部委託先の選定には時間がかかるため、2027年度中には準備を終えておくのが現実的です。

Q2. 従業員50人未満の会社に産業医は必要ですか?

常時使用する労働者が50人未満の事業場には、産業医の選任義務はありません。改正後もこの点は変わりません。ストレスチェックの実施者や高ストレス者への面接指導は、外部の実施機関や地域産業保健センター(地さんぽ)を活用することで対応できます。地域産業保健センターは50人未満の事業場を対象に、医師による面接指導などの産業保健サービスを無料で提供しています。

Q3. ストレスチェックを実施しないと罰則はありますか?

ストレスチェックの未実施そのものに対する直接の罰則規定はありません。ただし義務化後に実施していなければ、労働基準監督署からの是正指導や行政指導の対象になり得ます。また従業員がメンタル不調で休職・退職した際に、会社が安全配慮義務を果たしていなかったと判断されるリスクが高まります。罰則の有無よりも、離職防止と労災リスクの観点で取り組むべき制度です。

Q4. 50人未満の事業場は労働基準監督署への報告が必要ですか?

不要です。50人以上の事業場には実施状況を労働基準監督署に報告する義務がありますが、50人未満の事業場については負担軽減の観点から報告義務は課されない方針です。ただし、実施したことを証明できるよう、実施日・実施者・受検者数などの記録は適切に保管しておく必要があります。

Q5. 中小企業がストレスチェックの準備で最初にやるべきことは何ですか?

最初にやるべきことは、厚生労働省が2026年2月に公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」に目を通し、外部委託か自社実施かの方針を決めることです。多くの中小企業では、健康診断の委託先や地域産業保健センターに相談し、外部の実施機関に委託するのが現実的です。次に、実施時期・対象者・結果の取り扱いルールを衛生委員会や職場の話し合いの場で決め、従業員に説明します。

高橋 央

この記事の執筆者

高橋 央株式会社Sei San Sei 代表取締役CEO

株式会社リクルートキャリア(当時)にて地方転職のノウハウを社内外に共有し、北海道をはじめとする地方転職市場の拡大に寄与。2020年にベンチャー企業で人事責任者・子会社取締役を経験したのち、2023年1月に株式会社Sei San Seiを設立。DX・HR領域のサービスを展開。著書に『仕事や将来に迷った時に、若手キャリア層のこれからの描き方』がある。

ブログ一覧へ戻る

最新記事

まずはお気軽にご相談ください

無料相談・資料請求を受け付けております

お問い合わせはこちら