DX推進 2026.09.30

製造業のRPA導入事例|受発注・請求・日報・在庫照会を自動化する典型パターンと、中小工場が失敗しない進め方

製造業のRPA導入事例|受発注・請求・日報の自動化

「受注の入力だけで午前中が終わる」「月末は請求書づくりで残業になる」。中小製造業の事務所では、取引先のWeb受発注サイト、メール、FAX、生産管理システム、会計ソフト、Excelの間で、同じ数字を人が何度も打ち直す作業が今も残っています。経済産業省のものづくり白書でも、製造業の人手不足とデジタル技術の活用は毎年の主要テーマになっており、現場だけでなく間接部門の省力化も避けて通れない課題です。

こうした「システムとシステムの間の転記」を、人の代わりにソフトウェアのロボットが行うのがRPA(Robotic Process Automation)です。大がかりなシステム改修をしなくても、いまの画面操作をそのまま自動化できるため、基幹システムを入れ替える余力がない中小工場と相性の良い手段です。

この記事では、製造業のRPA導入事例を受発注、請求・経理、日報・生産実績・在庫照会の業務別に、中小工場でよく見られる典型パターンとして整理します。あわせて、RPAが向く業務と向かない業務の見極め方、導入で失敗しない5ステップを解説します。業種を問わないRPAの基礎はRPA導入の始め方で、AIエージェントとの違いはRPAとAIエージェントの違いで扱っていますので、この記事は製造業の業務に当てはめる実務に絞ります。

製造業でRPAが向く業務・向かない業務

RPAは「決まった手順を、決まった画面で、繰り返す」作業が得意です。逆に、判断が必要な作業や、手順が毎回変わる作業は苦手です。製造業の業務に当てはめると、次のように分かれます。

  • 向く業務:手順が決まっていて、データが電子化されており、件数が多い業務。取引先サイトからの注文データの取得、受注登録、出荷実績からの請求書作成、日報データの集計、在庫数の照会と回答など。
  • 条件付きで向く業務:紙やFAX、書式がばらばらなPDFが入口になる業務。AI-OCRや生成AIで読み取ってデータ化する工程を前段に置けば自動化できますが、読み取り結果を人が確認する手順が必要です。
  • 向かない業務:特急対応の可否、値引きや納期の交渉、不良の原因判断など、人の判断が中心の業務。また、月に数件しか発生しない業務は、ロボットを作って保守する手間のほうが大きくなります。

見極めの目安は「月あたりの件数 × 1件の作業時間」です。1件3分の作業でも、月500件あれば25時間になり、自動化の候補になります。

もう1つ押さえたいのは、RPAは画面操作をなぞる仕組みのため、相手のシステムの画面が変わると止まるという点です。生産管理システムや会計ソフトにデータ連携の機能(CSV取り込みやAPI)がある場合はそちらを優先し、連携機能がない「すき間」をRPAで埋めると考えると失敗しにくくなります。

受発注業務のRPA導入事例

製造業でRPAの効果がもっとも出やすいのが受発注です。取引先ごとに注文の受け方が違い、転記の回数が多いためです。

取引先のWeb受発注サイトから注文データを取得して受注登録する

大手の取引先が用意するWeb受発注サイト(Web-EDI)に毎朝ログインし、新しい注文や内示をダウンロードして、自社の生産管理システムや販売管理システムに登録する作業です。取引先が複数あると、サイトごとにログインと操作方法が違い、担当者の朝の時間を大きく取られます。

RPAで「各サイトを巡回→注文データを取得→自社の品番に変換→受注登録→登録結果を担当者に通知」までを自動化するのが典型パターンです。取引先品番と自社品番の対応表を先に整えておくことが、成功の条件になります。

メール・FAXの注文書を読み取って受注データにする

メール添付のPDFやFAXで届く注文書は、AI-OCRで文字を読み取り、RPAが受注画面に入力します。書式がばらばらな注文書は読み取りの誤りが出るため、「読み取り結果を担当者が画面で確認して承認→RPAが登録」という流れにして、人の確認を残すのが現実的です。

取引先ごとに書式が違う注文書の読み取りには生成AIを組み合わせる方法もあり、生成AI×RPA連携で解説しています。FAXそのものを減らす取り組みは製造業のFAX受発注をなくす手順を参照してください。

注文請書・納期回答・発注書の作成と送付

受注登録が済んだ注文について、注文請書や納期回答書を作成してメールで送る、取引先サイトに納期を入力する、といった返信作業も自動化の対象です。

仕入れ側では、在庫が発注点を下回った部品を一覧にし、発注書を作成して、担当者の承認後に仕入先へ送付する流れがよく使われます。発注点や在庫数の精度が前提になるため、在庫管理の脱Excelとあわせて進めると効果が安定します。

請求・経理業務のRPA導入事例

月末・月初に作業が集中する請求と経理は、残業の削減効果が分かりやすい領域です。

出荷実績から請求書を作成して送付する

出荷実績や検収データを販売管理システムから出力し、取引先ごとの締め日に合わせて請求書を作成、PDFにしてメールで送付する、または取引先の指定サイトに登録する作業です。取引先指定の書式や請求システムへの入力が求められる場合、手作業では1社ずつの対応になりますが、RPAなら夜間にまとめて処理できます。

入金消込と買掛金の照合

銀行の入金明細を取得して請求データと突き合わせ、一致したものを消し込み、金額が合わないものだけを担当者に知らせる使い方です。仕入れ側では、仕入先からの請求書と自社の検収データを照合し、差異のある明細を一覧にします。「全部を人が見る」から「合わないものだけを人が見る」に変わる点が、効果の中心です。

会計ソフトへの仕訳入力と月次資料の作成

販売管理や生産管理から出力した売上・仕入データを会計ソフトに取り込む、部門別や製品別の月次資料をExcelで作成する、といった定型作業も対象になります。製品別の原価を正しく把握する仕組みそのものは、製造業の原価管理をExcelから移行する方法で扱っています。

日報・生産実績・在庫照会のRPA導入事例

現場に近い領域では、RPAは「記録を集めて、まとめて、届ける」役割を担います。

日報・生産実績の集計とレポート配信

電子化した作業日報や設備の稼働データを毎日決まった時刻に集計し、ライン別の生産数・不良数・稼働率をまとめたレポートを、朝礼前に管理者へメールやチャットで配信する使い方です。集計担当者が毎朝Excelで作っていた資料が自動で届くようになり、その時間を数字を見て動くことに回せます。

前提は日報が電子化されていることで、紙の日報のままでは入力作業が残ります。手順は製造業の日報を電子化する手順を、追うべき指標は製造業の生産性向上 指標を参考にしてください。

生産管理システムとExcel・他システムの間の転記

生産管理システムの実績を出荷システムに登録する、Excelで作った生産計画をシステムに入力する、完成数を在庫管理に反映する、といった二重入力の解消です。

ただし、この転記が多い場合は、Excelとシステムの役割分担そのものを見直す合図でもあります。生産管理をExcelから脱却する手順とあわせて、RPAで残す部分と、仕組みごと置き換える部分を分けて考えます。

在庫照会・納期回答と検査成績書の作成

営業担当や取引先からの「在庫はあるか」「いつ出荷できるか」という問い合わせに対し、在庫と生産計画を照会して回答の下書きを作る使い方です。

また、出荷のたびに検査データから検査成績書を作成し、納品書と一緒に送付する作業も、書式が決まっているため自動化に向いています。検査の合否判定そのものは人と検査機器が行い、RPAは「判定済みのデータを書類にする」部分を受け持ちます。

中小製造業がRPA導入で失敗しない5ステップ

ステップ1:転記・照合の作業を棚卸しして、件数と時間で並べる

受発注・請求・経理・生産管理の担当者に、「システムからシステムへ打ち直している作業」「突き合わせて確認している作業」を書き出してもらいます。それぞれに月あたりの件数と1件の作業時間を付け、合計時間の大きい順に並べます。上位の3〜5業務が候補です。

ステップ2:手順を標準化してから自動化する

担当者によってやり方が違う作業や、例外処理が口頭で引き継がれている作業をそのままロボットにすると、例外のたびに止まります。先に手順を1つに揃え、特急・分納・単価未決といった例外の扱いを決めます。この整理は属人化の解消そのものであり、自動化する前から効果が出る工程です。

ステップ3:1業務・1か月で小さく試す

最初は、手順が単純で件数が多く、止まっても人が代わりにできる業務を1つ選びます。取引先1社の注文取得や、日報集計レポートの配信が向いています。1か月動かし、削減できた時間と止まった回数を記録します。

ステップ4:運用ルールを決める

ロボットごとに、目的・対象システム・実行時刻・管理者・止まったときの手作業の手順をまとめた管理台帳を作ります。ロボット用のIDとパスワードの管理、取引先サイトの利用規約で自動操作が禁止されていないかの確認も、この段階で行います。作った人しか直せない状態を避けるため、管理者は2名以上にします。

ステップ5:効果を測って横展開し、連携機能に置き換えていく

削減時間、入力ミスの件数、月末の残業時間など、業務ごとに1つの指標で効果を確認し、次の業務に広げます。安定して動いているロボットのうち、件数が多く重要なものは、システムのデータ連携機能や業種特化のシステムへの置き換えを検討します。

RPAは「つなぎ」として使い、土台は少しずつ整える。この位置付けが、長く使い続けるコツです。システムの選び方は製造業SaaSの選び方を参照してください。

導入でつまずく3つのパターン

  • 作った人しか分からない「野良ロボット」が増える:担当者が個人で作ったロボットが、異動や退職で誰も直せなくなるパターンです。管理台帳と複数名での管理で防ぎます。
  • 画面の変更で止まり、気付かないまま受注が漏れる:取引先サイトや自社システムの画面が変わると、RPAは止まります。実行結果の通知と、止まった日の手作業の手順を必ず用意します。
  • 紙のままの業務にRPAだけ入れて、入力作業が残る:入口が紙やFAXのままでは、結局は人が入力します。ペーパーレス化で入口を電子化してから自動化する順序が基本です。

まとめ:製造業のRPAは「システムのすき間の転記」から始めて土台づくりにつなぐ

  • RPAは、手順が決まっていて件数が多い転記・照合の業務に向く。判断や交渉が中心の業務、月に数件の業務には向かない
  • 受発注(注文取得・受注登録・納期回答)、請求・経理(請求書作成・入金消込・仕訳入力)、日報・生産実績・在庫照会(集計レポート・転記・検査成績書)に典型パターンがある
  • 進め方は、作業の棚卸し→手順の標準化→1業務1か月の試行→管理台帳などの運用ルール→効果測定と横展開、の5ステップ
  • つまずきの大半は、野良ロボット、画面変更による停止、紙のままの入口の3つ。RPAは「つなぎ」と位置付け、連携機能や業種特化のシステムへ少しずつ置き換える

製造業のRPAは、人を増やせない事務所の負担を短期間で軽くできる現実的な手段です。ただし、紙とExcelが残ったままでは自動化できる範囲が限られるため、記録の電子化と組み合わせて進めてください。製造業の現場改善とDXの全体像は製造業のDX・生産性向上ガイドを、業種を問わない生産性向上の考え方は生産性完全ガイドを参考にしてください。

株式会社Sei San Seiでは、生成AI × RPA × 業種特化型の次世代型ERPであるMINORI Cloud 製造業版で、受発注・在庫・日報・検査記録・請求といった製造業の業務を1つの仕組みにまとめ、転記や照合そのものを減らす環境づくりをご支援しています。「どの業務から自動化すべきか分からない」という段階では、MINORI Advisoryで業務の棚卸しからご相談いただけます。お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q1. 製造業でRPAの効果が出やすいのはどの業務ですか?

手順が決まっていて件数が多い、システム間の転記と照合の業務です。取引先のWeb受発注サイトからの注文取得と受注登録、出荷実績からの請求書作成、入金消込、日報や生産実績の集計レポートが代表例です。月あたりの件数に1件の作業時間を掛け、合計時間の大きい順に並べると優先順位を付けやすくなります。判断や交渉が中心の業務、月に数件しかない業務は対象から外します。

Q2. RPAとシステム連携(CSV取り込みやAPI)はどちらを選ぶべきですか?

使っているシステムにデータ連携の機能があるなら、そちらを優先してください。連携機能は画面の変更に影響されず、安定して動きます。RPAは画面操作をなぞる仕組みのため、連携機能がないシステムの間や、取引先が指定するWebサイトへの入力など、自社では変えられない「すき間」を埋める用途に向いています。まずRPAで効果を確かめ、件数の多い重要な業務から連携機能や業種特化のシステムに置き換える進め方が現実的です。

Q3. 情報システムの担当者がいない中小工場でも運用できますか?

運用できますが、管理者を決めずに始めると、作った人しか直せないロボットが増えます。ロボットごとに目的・対象システム・実行時刻・止まったときの手作業の手順をまとめた管理台帳を作り、管理者を2名以上にしてください。最初の1〜2業務は外部の支援を受けて作り、社内では動作の確認と簡単な修正ができる状態を目指すと、無理なく続けられます。

Q4. 紙やFAXの注文書が多い場合でもRPAは使えますか?

AI-OCRで注文書を読み取ってデータ化し、RPAが受注画面に入力する形で使えます。ただし、手書きや書式がばらばらな注文書は読み取りの誤りが出るため、担当者が読み取り結果を確認して承認する手順を残してください。並行して、取引先にWeb受発注やメールでの注文への切り替えを依頼し、紙とFAXの入口そのものを減らしていくと、自動化できる割合が高まります。

Q5. RPAの導入にはどのくらいの費用と期間がかかりますか?

パソコン1台で動かすデスクトップ型であれば、無料または比較的少額で使い始められるツールがあり、単純な業務なら数週間で動かせます。費用と期間が膨らむのは、対象業務の手順が標準化されていない場合や、例外処理が多い場合です。ツールの利用料だけでなく、作成と保守にかかる社内の時間も含めて見積もり、削減できる作業時間と比べて判断してください。

高橋 央

この記事の執筆者

高橋 央株式会社Sei San Sei 代表取締役CEO

株式会社Sei San Sei CEO。半導体商社での技術提案、リクルートでの製造業向け採用支援・RPO推進を経て、ITベンチャー取締役・人事責任者を歴任。2023年にSei San Seiを設立し、大手製造メーカーをはじめ累計30社以上の採用・業務改善支援を手掛ける。「現場の技術理解」と「採用・組織作り」の双方に強いノウハウを持つ。著書に『仕事や将来に迷った時に、若手キャリア層のこれからの描き方』がある。

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