DX推進 2026.09.21

製造業の在庫管理をExcelから移行する手順|部品・仕掛品・製品在庫をシステム化する進め方

製造業の在庫管理をExcelから移行する手順

「帳簿では在庫があるはずなのに、棚に行くと無い」「月末の棚卸しのたびに、Excelの数字を現物に合わせ直している」。中小製造業の資材・生産管理の担当者から、よく聞く悩みです。

在庫管理をExcelで始めること自体は間違いではありません。品目が少なく、担当者が1人で全体を把握できるうちは、Excelがいちばん速くて安い道具です。問題が表に出てくるのは、品目数と入出庫の件数が増え、入出庫の事実とExcelの数字の間に時間差と人手が挟まるようになったときです。

この記事では、製造業の在庫管理がExcelで限界を迎えるサイン、製造業ならではの在庫の難しさ、移行前に整えておくこと、そして業務を止めずにExcelから専用ツールへ移行する5つのステップを、中小製造業の現場を前提に整理します。小売店の在庫管理については小売店の在庫管理をExcelからアプリに移行する手順で別に解説しています。

Excelの在庫管理が限界を迎える5つのサイン

次の5つのうち、2つ以上が当てはまるなら移行を検討する段階です。

1. 帳簿と現物の数が合わない

棚卸しのたびに差異が出て、原因を追えないままExcelの数字を現物に合わせて上書きしている。この状態では、Excelは在庫の記録ではなく、月に一度の棚卸し結果のメモになっています。

2. 仕掛品の数量が見えない

材料と完成品は数えているが、工程の途中にあるものは誰も把握していない。営業から「あの注文、いつ出せる?」と聞かれるたびに、現場を歩いて確認する必要があります。

3. ロットや先入れ先出しを追えない

取引先から不具合の連絡を受けたとき、どのロットの材料を使った製品なのかをExcelからたどれない。使用期限のある材料や塗料が、棚の奥で期限切れになっていた、というのも同じ原因です。

4. 発注のタイミングが担当者の勘になっている

「そろそろ無くなりそうだから頼んでおく」という判断がベテランの頭の中にあり、その人が休むと欠品するか、不安から多めに発注して過剰在庫になります。経済産業省のものづくり白書でも、人手不足と技能承継は製造業の継続的な課題として取り上げられており、発注判断の属人化はその身近な例です。

5. 入出庫の転記が遅れ、在庫数が常に古い

現場は紙の出庫伝票に書き、事務所で翌日にExcelへ入力する。Excelの在庫数は常に1日遅れで、その間に出た分は誰にも見えません。共有ファイルを同時に開けず、入力の順番待ちが起きている場合も同じ問題を抱えています。

製造業の在庫は3種類|小売業にはない難しさ

製造業の在庫管理が難しいのは、在庫が3種類あり、それぞれが形を変えながら工場の中を流れていくからです。

  • 原材料・部品:仕入れた状態のもの。鋼材、樹脂、購入部品、副資材など。キログラム・メートル・個といった単位が混在し、仕入れ単位と使用単位が異なることも珍しくありません。
  • 仕掛品:加工の途中にあるもの。どの工程まで進んだかによって価値が変わり、数えにくい在庫の代表です。
  • 製品:完成して出荷を待つもの。受注と引き当てて管理する必要があります。

さらに、製造業には次のような固有の要素があります。

  • 部品表(BOM)による引き落とし:製品を1個作ると、どの部品が何個減るのか。この対応をExcelの関数で維持するのは、品目が増えるほど難しくなります。
  • 歩留まりと端材:投入した材料がすべて製品になるわけではなく、不良や端材が出ます。理論上の使用量と実際の使用量のズレが、帳簿差異の原因になります。
  • 外注先への支給品:外注加工に出している材料は、自社の棚には無いが自社の在庫です。ここが管理から漏れると、棚卸しの数字が合いません。

すべてを最初から完璧に管理する必要はありません。大切なのは、自社がどの在庫の、どの難しさで困っているのかを見極め、そこから順に仕組みを作ることです。

移行前にExcelのまま整える3つのこと

ツールを入れれば在庫が合うようになる、というわけではありません。整理されていないExcelの混乱は、そのまま新しいツールに引き継がれます。次の3つは、Excelを使い続けながら先に済ませておきます。

品目マスタを1品目1コードに統一する

同じボルトが「M6ボルト」「六角ボルトM6×20」「BLT-M6」と3通りに書かれていると、在庫は3行に分かれて合計が見えません。品目コード、品名、規格、単位、仕入先を1行にまとめた品目マスタを作り、入出庫の記録ではコードをプルダウンから選ぶ形にします。地味ですが、移行の成否をいちばん左右する作業です。

保管場所に棚番を振る

「第2倉庫の奥の棚の上から2段目」を「B-03-2」のように記号化します。棚番があると、誰でも迷わず物を探せるようになり、棚卸しを棚単位で分担でき、後でバーコードやQRコードのラベルを貼る土台にもなります。整理・整頓の進め方は、製造業の生産性向上と現場改善で取り上げている5Sの考え方がそのまま使えます。

入出庫のルールを決める

いつ記録するのか(物を動かしたその場か、1日の終わりか)、誰が記録するのか、どの単位で記録するのか(箱か、個か、キログラムか)。このルールが人によって違うと、どんなツールでも数字は合いません。理想は「物を動かした人が、その場で記録する」ですが、まずは現状のルールを紙に書き出して、ばらつきを見える化するところから始めます。

Excelから移行する5ステップ

ステップ1:実地棚卸しで開始在庫を確定する

移行の出発点は、正しい現在の在庫数です。ずれたままの数字を新しいツールに取り込むと、初日から帳簿と現物が合わず、現場の信頼を失います。整えた品目マスタと棚番を使って実地棚卸しを行い、これを開始在庫とします。

ステップ2:ABC分析で管理対象を絞り込む

全品目を同じ精度で管理する必要はありません。在庫金額や出庫頻度の大きい順に並べ、上位のAランク(品目数では2割前後、金額では大半を占めることが多い)は入出庫を1件ずつ記録し、中位のBランクは簡易な記録、ねじや梱包材のようなCランクは「箱が空いたら発注する」方式に割り切ります。最初に移行するのはAランクだけで構いません。

ステップ3:ツール要件を定義する

サインの確認と在庫の種類の整理から、自社に必要な条件を書き出します。「現場のスマートフォンでQRコードを読んで出庫できる」「ロット番号を入庫時に登録し、出庫時に古い順を提示する」「在庫が発注点を下回ったら通知する」など、自社の言葉で書くことがポイントです。

ステップ4:Excelと並行運用する

1〜2か月はExcelと並行して運用し、両者の数字を週に1回突き合わせます。差が出たら、どちらの記録が漏れたのかを確認します。この期間は二重入力の負担がかかりますが、入出庫ルールの抜け穴(夜勤の出庫が記録されていない、返品の戻し入れが漏れている、など)を見つける貴重な機会です。

ステップ5:本稼働し、循環棚卸しで精度を保つ

切り替え日を決め、それ以降はExcelの在庫表を更新禁止にします。本稼働後は、年に1〜2回の一斉棚卸しだけに頼らず、毎週いくつかの棚を決めて数える循環棚卸しを取り入れると、差異を早く見つけて原因をたどれるようになります。

移行先の選択肢と選び方

  • 在庫管理専用のクラウドサービス:入出庫・棚卸し・発注点管理に機能を絞ったもの。スマートフォンでの読み取りに対応したものが多く、短期間で始められます。部品表との連動は弱いことが多いため、原材料・部品と製品の管理が中心の会社に向きます。
  • 生産管理システムの在庫機能:受注・工程・在庫が一体になっており、製造実績から部品を自動で引き落とせます。すでに生産管理のExcelからの脱却を進めているなら、同じ仕組みの中で在庫も扱うのが自然です。
  • 業種特化型のSaaS・ERP:部品加工、板金、食品など、業種の単位や工程があらかじめ組み込まれたもの。在庫だけでなく原価や受発注までつなげたい会社に向きます。選び方は製造業SaaSの選び方と導入手順で整理しています。
  • ノーコードツール:自社で画面と項目を組み立てる方式。自由度は高いものの、設計を誤るとExcelと同じ属人化が再現されます。

比較するときの軸は4つです。バーコード・QRコードでの入出庫に対応しているかロットや使用期限を管理できるか部品表と連動して引き落とせるか発注点を下回ったときに通知できるか。このうち自社のサインに対応するものを必須条件とし、それ以外は「あれば良い」に分けると、選定が短時間で終わります。

中小企業白書でも、デジタル化の取り組みは、ツールの導入そのものよりも、業務の見直しと組み合わせた企業ほど効果を実感している傾向が示されています。在庫管理でいえば、前述のマスタ整理と入出庫ルールの統一が、その「業務の見直し」にあたります。

移行後に追う4つの指標

在庫がリアルタイムで見えるようになってからが、在庫削減と欠品防止の本番です。月次で次の4つを確認します。

  • 棚卸差異率:帳簿と現物の差の割合。仕組みが機能しているかを測る、最も基本の指標です。
  • 在庫回転率:一定期間に在庫が何回入れ替わったか。品目群ごとに見ると、寝ている在庫が分かります。
  • 欠品件数:欠品によって生産や出荷が止まった回数。発注点の設定が適切かどうかの検証に使います。
  • 滞留在庫の金額:一定期間動いていない在庫の金額。処分や転用の判断材料になります。

工場全体で追うべき数字の選び方は製造業の生産性向上指標で、在庫の数字を原価につなげる方法は原価管理のExcelからの移行で整理しています。

移行時のつまずきと対策

現場が入出庫を記録しない

急いでいるときほど、記録は後回しになります。対策は、記録の手間を物を取る動作と同じくらいまで小さくすることです。棚にラベルを貼り、スマートフォンで読み取って数量を入れるだけにする。記録の場所を事務所ではなく棚の前にする。手書きの出庫伝票から事務所で転記する流れを残さないことが重要です。紙の帳票を減らす進め方は製造業の日報を電子化する手順も参考になります。

開始在庫がずれたまま始めてしまう

棚卸しから切り替えまでに日数が空くと、その間の入出庫が反映されず、初日からズレます。棚卸しの直後、できれば翌営業日に切り替える段取りを組みます。

全品目を一度に移そうとして止まる

数千点の品目マスタを完璧に整えてから始めようとすると、準備だけで数か月が過ぎます。Aランク品目だけで先に本稼働し、効果を確認しながらBランクへ広げる進め方が、結果としていちばん速く終わります。

まとめ:在庫が合う仕組みは、ツールの前にルールで決まる

  • 限界のサインは、帳簿と現物の不一致・仕掛品が見えない・ロットを追えない・発注が勘頼み・転記遅れの5つ。2つ以上なら移行の検討時期
  • 製造業の在庫は原材料・部品、仕掛品、製品の3種類。部品表、歩留まり、外注支給品のどこで困っているかを見極める
  • 移行前に、品目マスタの統一・棚番・入出庫ルールの3つをExcelのまま整える
  • 移行は、実地棚卸し→ABC分析で絞り込み→要件定義→並行運用→本稼働と循環棚卸しの5ステップ
  • 移行後は棚卸差異率・在庫回転率・欠品件数・滞留在庫の金額を月次で確認し、改善を回す

在庫が合わないのは、担当者の注意不足ではなく、仕組みの問題です。物が動いた瞬間に記録が残る流れを作れば、在庫は合うようになり、探す時間・数え直す時間・欠品で止まる時間が減っていきます。生産性向上の全体像は生産性完全ガイドを、製造業に絞った進め方は製造業のDX・生産性向上ガイドを参考にしてください。

株式会社Sei San Seiでは、生成AI × RPA × 業種特化型の次世代型ERPであるMINORI Cloud 製造業版を提供しています。製造・建設・福祉に最適化された13モジュールのうち、在庫・受注・工程・実績といった領域を、Excelからの段階的な移行を前提に組み立てられる点が特徴です。「まずAランクの部品だけ管理したい」「品目マスタの整理から相談したい」という段階からでも、お気軽にご相談ください

よくある質問

Q1. 製造業の在庫管理はExcelでどこまで対応できますか?

管理する品目が数百点までで、入出庫を記録する人が1〜2名に限られ、ロット単位の追跡を求められていないうちは、Excelでも十分に運用できます。品目数が増えて帳簿と現物のズレが常態化した、仕掛品の数量が分からず納期回答に時間がかかる、取引先からロットのトレーサビリティを求められた、といった状況が出てきたら、専用ツールへの移行を検討する時期です。

Q2. 在庫管理をシステムに移行する前に、まず何をすべきですか?

最初に行うのは品目マスタの整理です。同じ部品に複数の呼び名やコードが付いている状態を解消し、1品目1コードに統一します。あわせて保管場所に棚番を振り、入出庫をいつ・誰が・どの単位で記録するかのルールを決めてください。この3つが整っていれば、どのツールを選んでもデータの取り込みが短期間で済み、現場の混乱も小さくなります。

Q3. 仕掛品の在庫はどのように管理すればよいですか?

仕掛品を工程ごとに細かく数えようとすると、記録の負担が大きく続きません。まずは、材料を投入した時点と完成品を計上した時点の2点だけを記録し、その差を仕掛品として把握する方法から始めるのが現実的です。工程の進捗まで見たい場合は、作業日報の電子化と組み合わせ、工程完了の実績から仕掛品の位置を把握する形に段階的に広げていきます。

Q4. バーコードやQRコードの導入は必須ですか?

必須ではありませんが、入出庫の件数が1日に数十件を超えるなら導入をおすすめします。手入力は件数が増えるほど入力漏れと打ち間違いが増え、帳簿と現物のズレの主な原因になります。専用のハンディ端末を用意しなくても、スマートフォンやタブレットのカメラで読み取れるサービスが増えているため、まずは出庫頻度の高い品目の棚にラベルを貼るところから小さく始められます。

Q5. 在庫管理の移行にはどれくらいの期間がかかりますか?

マスタの整理と実地棚卸しに1〜2か月、ツールの選定に1か月、Excelとの並行運用に1〜2か月が目安で、合計で3〜5か月程度を見ておくと無理がありません。全品目を一度に移すのではなく、金額や出庫頻度の大きいAランク品目から始めると、早い段階で効果を確認でき、残りの品目の移行も進めやすくなります。決算や繁忙期の棚卸しに合わせて切り替え日を決めるのも有効です。

高橋 央

この記事の執筆者

高橋 央株式会社Sei San Sei 代表取締役CEO

株式会社Sei San Sei CEO。半導体商社での技術提案、リクルートでの製造業向け採用支援・RPO推進を経て、ITベンチャー取締役・人事責任者を歴任。2023年にSei San Seiを設立し、大手製造メーカーをはじめ累計30社以上の採用・業務改善支援を手掛ける。「現場の技術理解」と「採用・組織作り」の双方に強いノウハウを持つ。著書に『仕事や将来に迷った時に、若手キャリア層のこれからの描き方』がある。

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