人事・採用 2026.11.06

多能工化の進め方|製造業の多能工化率の計算例と目標の決め方、訓練する工程の順番、ジョブローテーション計画表の例、失敗しない6つの手順と処遇の考え方

多能工化の進め方|製造業の育成計画とジョブローテーション

「溶接ができるのはあの人だけなので、休まれるとラインが止まる」「多能工化を方針に掲げたが、忙しくて教える時間がなく、結局いつも同じ人が同じ工程にいる」「ローテーションを始めたら不良が増えて、元に戻した」。中小製造業の現場で、よく聞く悩みです。多能工化は人手不足の中で生産を守る有効な手段ですが、目標・順番・計画がないまま始めると、現場の負担だけが増えて止まりがちです。

この記事では、多能工化の進め方として、多能工化率の測り方と目標の決め方、訓練する工程と人の順番、ジョブローテーション計画表の例、習熟中に品質を守る方法、失敗しない6つの手順と処遇の考え方を整理します。土台になる表の作り方は製造業のスキルマップの記事で、評価制度への組み込み方は製造業の人事評価制度の記事で解説しています。

多能工化とは|1人が複数の工程を、基準どおりにこなせる状態をつくること

多能工化とは、1人の作業者が複数の工程や作業を、品質と時間の基準を満たして担当できるようにする取り組みです。「少し手伝える」ではなく、一人で任せられる状態を増やすことがポイントです。目的は大きく3つあります。

  • 欠員・休暇への対応:特定の人が休んでも代わりが入れるため、生産が止まらず、本人も休みを取りやすくなります
  • 負荷の平準化:受注の波や工程ごとの負荷の偏りに、手の空いた人が応援に入って対応できます
  • 属人化の解消と技能伝承:技能を複数人に広げることで、ベテランの退職がそのまま工場のリスクになる状態を防げます

ジョブローテーション・多工程持ちとの違い

多能工化は「目指す状態」で、ジョブローテーションはそのための手段です。担当する工程を計画的に入れ替えることで、複数の工程を覚え、覚えた技能を忘れない状態を保ちます。また、1人が流れに沿って異なる工程の設備を受け持つ「多工程持ち」や、同じ種類の設備を複数台受け持つ「多台持ち」は、多能工化で身につけた技能を日常の配置で生かす形の1つと考えると整理しやすくなります。

多能工化が進まない4つの理由

  • 教える時間がない:1人しかできない工程ほど忙しく、その人が教える時間を取れない。訓練の時間が生産計画に入っていない
  • 「できる」の基準がない:何をもって一人前とするかが決まっておらず、教える側も覚える側もゴールが見えない
  • 品質や生産性の一時的な低下を恐れる:慣れない人が入ると不良や遅れが出るため、現場のリーダーがローテーションを避ける
  • 覚えても処遇が変わらない:新しい工程を覚える負担に見合う評価や手当がなく、本人の希望も聞かれていない

どれも、本人のやる気の問題というより仕組みの問題です。以下の測り方・順番・計画は、この4つを1つずつつぶすためのものです。ベテランの協力を得る方法など属人化そのものへの対策は製造業の属人化を解消する方法も参考にしてください。

多能工化率の測り方と目標の決め方

多能工化を進めるには、まず今の状態を数字で押さえます。よく使われるのは次の計算式です。

多能工化率(%)= 一人で標準作業ができるレベル以上のセルの数 ÷(作業者数 × 工程数)× 100

スキルマップを0〜4の5段階で付けている場合は、「レベル2:一人で標準作業ができる」以上を数えます。多能工化率の定義は会社によって異なるため、社内で1つに決めて、同じ式で推移を見ることが大切です。あわせて、工程ごとのカバー人数(その工程をレベル2以上でできる人数)と、1人あたりの担当可能工程数も見ると、どこが手薄かが分かります。

計算例

以下は、板金加工の職場(作業者6人・5工程)を想定した説明用の例です。数字はスキルマップのレベル(0〜4)を表します。

作業者 切断 曲げ 溶接 仕上げ 検査 担当可能工程数
Aさん(ベテラン) 4 3 2 1 0 3
Bさん 2 2 0 0 1 2
Cさん(溶接の指導者) 0 1 4 2 0 2
Dさん 0 0 1 3 2 2
Eさん 1 0 0 2 3 2
Fさん(入社1年目) 2 0 0 0 0 1
カバー人数 3 2 2 3 2 計12

レベル2以上のセルは12個なので、多能工化率は12 ÷(6人 × 5工程)× 100 = 40%です。ただ、率だけを見ても打ち手は決まりません。この表からは、曲げ・溶接・検査のカバー人数が2人しかいないこと、溶接で指導できる人(レベル4)がCさん1人だけであること、Fさんの担当が1工程にとどまっていることが読み取れます。次に覚えてもらう工程は、この「手薄なセル」から決めます。

目標は「全員が全工程」ではなく、工程ごとのカバー人数から決める

多能工化率100%、つまり全員が全工程をできる状態を目指す必要はありません。訓練の負担が大きすぎるうえ、使わない技能はすぐに落ちます。目標は、工程ごとに何人できれば生産が止まらないかから逆算します。1人が休んでも回るには最低2人、休暇や応援、指導役の不在まで考えると3人以上が1つの目安です。2直・3直の交替制なら直ごとに必要な人数を数えます。この例なら、「1年で全工程のカバー人数を3人以上、1人あたり2工程以上」のように、カバー人数と1人あたりの工程数で目標を置き、多能工化率はその結果として追うと現場に伝わりやすくなります。

訓練する工程と人の順番|どこから、誰に覚えてもらうか

優先する工程

  • 1人しかできない工程:その人の休暇・退職が、そのまま生産停止につながる
  • ボトルネック工程:応援に入れる人が増えると、ライン全体の生産量が上がる。見つけ方はボトルネック工程の記事で解説しています
  • 指導できる人が1人だけの工程:レベル4が1人だけの工程は、早めに次の指導者を育てる

覚えてもらう人の選び方

最初は、その工程の前後を担当している人から選ぶのがおすすめです。前工程から何が来て、後工程で何が求められるかをすでに知っているため、覚えるのが早く、品質のつながりも理解しやすくなります。作業内容の近い工程(たとえば切断と曲げ)から順に広げ、離れた工程は後回しにします。本人の希望や適性も面談で聞き、「次に覚えたい工程」を本人と一緒に決めると、やらされ感が減ります。

資格・安全教育が必要な作業に注意する

フォークリフトの運転、クレーン・玉掛けの作業、研削といしの取り替えのように、法令で資格や技能講習・特別教育が必要な作業があります。こうした作業は、資格の取得や教育の受講を訓練計画に含め、資格のない人を配置しないことが前提です。また、労働安全衛生法では作業内容を変更したときにも安全衛生教育を行うことが定められています。担当工程を変えるときは、その工程の危険と安全手順を教えてから入ってもらい、記録を残します。どの作業が対象になるかは、所轄の労働基準監督署や専門家に確認してください。

ジョブローテーション計画表の作り方と例

ジョブローテーションは、訓練期(指導者が付いて覚える)→ 単独期(一人で担当する)→ 維持期(定期的に入って技能を保つ)の3段階で考えると計画しやすくなります。以下は、前の計算例の職場を想定した説明用の計画表の例です。

対象者 覚える工程 指導者 訓練の入れ方 到達目標
Bさん 溶接 Cさん 1〜3か月目は週2回の半日、4か月目から週1日を単独で担当 半年でレベル2
Fさん 曲げ Aさん 切断の段取り待ちの時間に合わせて週3回の2時間 半年でレベル2
Cさん 検査 Eさん 仕上げの後に続けて検査を担当する日を週1日 半年でレベル2
Aさん (指導役) ― 曲げの作業標準書をFさんと一緒に見直す 曲げの指導者を2人に

計画表をつくるときのポイントは3つです。1つめは、訓練の時間を生産計画の中に先に確保すること。「手が空いたら教える」では、忙しい時期に必ず止まります。2つめは、急な欠員のときに初めて入るのではなく、計画した日に訓練として交代させること。3つめは、覚えた工程にも月に数回は入る日を決め、維持期の予定まで表に入れることです。しばらく入らない工程は、手順を忘れてレベルが下がります。

習熟中の品質を守る

担当者の交代は、4Mの「人」の変化点にあたります。習熟中は指導者が近くに付き、担当を替えた日の最初の製品は初物確認で確かめ、検査の頻度も一時的に増やします。教えるときは作業標準書を教材にし、TWIの仕事の教え方(新人教育の記事で解説)の4段階で進めると、教え方が人によってばらつきにくくなります。

多能工化を進める6つの手順

手順1:目的と対象の職場を決める

欠員対応、負荷の平準化、技能伝承のうち、何を一番解決したいかを決めます。目的によって優先する工程が変わるためです。工場全体を一度に進めず、困りごとが最も大きい職場を1つ選んで始めます。

手順2:スキルマップで現状を測る

工程ごとに、誰がどのレベルでできるかをスキルマップに記入し、多能工化率、工程ごとのカバー人数、1人あたりの担当可能工程数を計算します。レベルは自己評価と上長評価の両方で付け、レベル基準を行動で判定できる言葉にしておきます。

手順3:目標と優先する工程を決める

直数や休暇、応援の必要性から、工程ごとに必要なカバー人数を決めます。そのうえで、1人しかできない工程、ボトルネック工程、指導者が1人の工程の順に優先順位を付けます。目標は1年で達成できる範囲にとどめます。

手順4:訓練計画とジョブローテーション計画をつくる

誰が、どの工程を、誰に教わり、いつまでにどのレベルを目指すかを計画表にします。訓練の時間は生産計画と同じ表で管理し、受注が多い時期は訓練を減らし、少ない時期に厚くするなど、年間で調整します。指導者の生産量が下がる分も、あらかじめ見込んでおきます。

手順5:標準書と指導者で教え、品質を確かめる

作業標準書を教材に、指導者が教えます。手順書がない工程は、教えながらベテランと一緒に作るのが近道です。習熟中は初物確認と検査を強化し、レベルの判定は「その工程を単独で一定回数こなし、その間の不良がない」など、作業の実績と不良の記録で行います。

手順6:評価・処遇に反映し、半年ごとに見直す

到達したレベルを、評価や手当、等級にどう反映するかの基準を決め、本人に伝えます。半年ごとにスキルマップを更新し、カバー人数の推移、訓練が計画どおり進んだか、品質に影響が出ていないかを確認して、目標と計画を見直します。

多能工手当・処遇の考え方

新しい工程を覚えるのは、本人にとって負担です。その負担に報いる仕組みがないと、多能工化は続きません。報いる方法は大きく2つあります。

  • 手当で報いる:担当できる工程の数やレベルに応じて手当を支給する。効果が分かりやすい一方、基準があいまいだと不公平感の原因になる
  • 等級・評価に反映する:担当可能工程数や指導の実績を評価項目に入れ、昇給・昇格につなげる。考え方は製造業の人事評価制度の記事で解説しています

どちらの場合も、スキルマップのレベルなど記録に基づく基準にすることが大切です。なお、手当の新設や支給基準の変更は賃金規程・就業規則の改定を伴うことがあり、担当工程や職場を変える配置転換も、雇用契約で職種や勤務場所を限定している場合などは扱いが変わります。具体的な制度設計や運用は、社会保険労務士に確認したうえで進めてください。

まとめ:多能工化は、カバー人数の目標と訓練の時間の確保から始める

  • 多能工化は、1人が複数の工程を品質と時間の基準どおりに担当できる状態をつくる取り組み。ジョブローテーションはその手段
  • 進まない理由は、教える時間がない、「できる」の基準がない、品質低下への不安、処遇が変わらない、の4つ
  • 多能工化率は「レベル2以上のセル数 ÷(人数 × 工程数)」。工程ごとのカバー人数と1人あたりの工程数もあわせて見る
  • 目標は全員が全工程ではなく、工程ごとに最低2人、できれば3人以上のカバー人数から決める
  • 手順は、目的と職場→スキルマップで現状測定→目標と優先工程→訓練・ローテーション計画→標準書で教え品質を確認→評価・処遇への反映と見直し、の6つ

まずは1つの職場でスキルマップを付け、カバー人数が2人以下の工程を書き出すところから始められます。生産性向上の考え方は生産性完全ガイドを、製造業に絞った進め方は製造業のDX・生産性向上ガイドを参考にしてください。

株式会社Sei San Seiでは、製造業の人材領域を支援するMINORI Talentで、採用から定着・育成までのご相談をお受けしています。また、生成AI × RPA × 業種特化型の次世代型ERPであるMINORI Cloud 製造業版では、スキルや教育訓練の記録、作業日報をひとつにまとめ、多能工化の進み具合を日常的に確認できる仕組みづくりを支援しています。「どの工程から教えればよいか決められない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q1. 多能工化とは何ですか?

多能工化とは、1人の作業者が複数の工程や作業を、品質と時間の基準を満たして担当できるようにする取り組みです。特定の人しかできない工程をなくして欠員や休暇があっても生産を止めないこと、工程間の負荷の偏りに応援で対応すること、技能を複数人に広げて属人化を防ぐことが主な目的です。手段として、担当工程を計画的に入れ替えるジョブローテーションがよく使われます。

Q2. 多能工化率はどう計算しますか?

よく使われるのは、スキルマップで「一人で標準作業ができる」レベル以上のセルの数を、作業者数×工程数で割って百分率にする方法です。たとえば6人×5工程の職場で該当するセルが12個なら、12÷30で40%になります。定義は会社によって異なるため社内で1つに決め、工程ごとのカバー人数や1人あたりの担当可能工程数とあわせて見ると、どこが手薄かが分かります。

Q3. 多能工化はどの工程から始めればよいですか?

1人しかできない工程、ボトルネック工程、欠員が出たときに生産全体が止まる工程を優先します。覚える人は、その工程の前後を担当している人から選ぶと、材料や品質の要求をすでに知っているため覚えやすくなります。資格や特別教育が必要な作業は資格の取得を計画に含め、資格のない人を配置しないようにします。全員を全工程にする必要はありません。

Q4. ジョブローテーションで品質が落ちないようにするにはどうすればよいですか?

担当者の交代は4Mの「人」の変化点にあたるため、習熟中は指導者が付き、初物確認や検査の頻度を増やします。作業標準書に沿って教え、レベルの判定は作業の実績や不良の記録で行います。急な欠員のときに初めて入るのではなく、計画した日に訓練として交代させること、覚えた工程に定期的に入って技能を維持することも大切です。

Q5. 多能工手当は支給すべきですか?

多能工化に取り組んだ人に報いる方法には、手当を支給する方法と、等級や評価に反映して昇給・昇格につなげる方法があります。どちらの場合も、スキルマップのレベルなど記録に基づく支給や昇格の基準を決めることが大切です。賃金規程や就業規則の変更、配置転換の範囲にも関わるため、具体的な制度設計は社会保険労務士に確認したうえで進めてください。

高橋 央

この記事の執筆者

高橋 央株式会社Sei San Sei 代表取締役CEO

株式会社Sei San Sei CEO。半導体商社での技術提案、リクルートでの製造業向け採用支援・RPO推進を経て、ITベンチャー取締役・人事責任者を歴任。2023年にSei San Seiを設立し、大手製造メーカーをはじめ累計30社以上の採用・業務改善支援を手掛ける。「現場の技術理解」と「採用・組織作り」の双方に強いノウハウを持つ。著書に『仕事や将来に迷った時に、若手キャリア層のこれからの描き方』がある。

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