製造業の設備保全|事後保全・予防保全・予知保全の違いと、中小工場が突発停止を減らす始め方、AI・IoTの活用法
朝一番に主力の設備が動かない。保全担当のベテランを呼び、原因を探し、部品を取り寄せるまで半日以上ラインが止まる。納期が迫る中で残業と休日出勤で取り戻す。中小工場では、こうした突発停止が「仕方のないこと」として繰り返されがちです。
しかし、突発停止の多くは前触れがあります。いつもより大きい音、わずかな発熱、少しずつ増える不良。それを捉える記録と点検の仕組みがないために、壊れてから気づくことになっています。設備保全は、高価なシステムを入れる前に、設備を知り、記録を残し、計画的に手を入れることから始められます。
この記事では、事後保全・予防保全・予知保全の違い、突発停止が減らない原因、設備保全を仕組みにする5つのステップ、予知保全とAIを小さく始める方法、効果の測り方を、中小工場の現場を前提に整理します。
設備保全とは|事後保全・予防保全・予知保全の違い
設備保全とは、設備を壊れにくく、壊れてもすぐ直せる状態に保つ活動のことです。保全の方法は、大きく次の3つに分かれます。
- 事後保全:故障してから修理する方法。点検の手間はかかりませんが、いつ止まるか分からず、停止時間が長くなりがちです。止まっても影響が小さい設備に向きます。
- 予防保全(時間基準保全):一定の期間や稼働回数ごとに点検・部品交換を行う方法。突発停止は減りますが、まだ使える部品まで交換するため、費用がかさむこともあります。
- 予知保全(状態基準保全):振動や温度などのデータで設備の状態を監視し、劣化の兆候が出た時点で手を打つ方法。必要なときだけ手を入れられる一方、データを取る仕組みが必要です。
ここで大切なのは、すべての設備を予知保全にする必要はないということです。止まると工場全体が止まる設備には予知保全や予防保全を、代わりがある設備や安価な設備には事後保全を、と設備の重要度で使い分けるのが現実的です。また、作業者自身が清掃・給油・増し締めなどの日常点検を担う「自主保全」は、TPM(全員参加の生産保全)の柱の一つで、どの保全方法とも組み合わせられます。
中小工場で突発停止が減らない5つの原因
1. 故障の記録が残っていない
直したら終わりで、いつ・どこが・なぜ壊れたかが記録されていないと、同じ故障が繰り返されても気づけません。保全の計画を立てる根拠もありません。
2. 点検が形だけになっている
チェックシートにレ点を付けるだけで、何を見て、どうなっていたら異常なのかの基準がない点検は、異常を見逃します。点検項目が多すぎて、実施されていないケースもあります。
3. 予備品が用意されていない
故障の原因がすぐに分かっても、交換部品が手元になければ、取り寄せまで設備は止まったままです。古い設備ほど部品の納期が長く、停止が長引きます。
4. 保全がベテラン一人に頼っている
音や匂いで異常に気づき、手際よく直せるのは、長年その設備を見てきたベテランです。その人が不在の日や退職した後に、復旧できなくなるリスクがあります。保全は属人化しやすい業務の代表です。
5. 停止の損失が数字で見えていない
設備が止まった時間と、それによって失った生産量や残業代が把握されていないと、保全への投資の優先度が上がりません。結果として、壊れたら直す状態が続きます。
設備保全を仕組みにする5つのステップ
ステップ1:設備台帳を作り、重要度ランクを付ける
工場内の設備を一覧にし、型式・導入年・メーカー・保全の担当者を整理します。そのうえで、止まったときの生産・品質・安全への影響から、A(止まると工場が止まる)・B(代替はあるが影響大)・C(影響小)の3段階で重要度を付けます。この後の手間をどこにかけるかは、このランクで決まります。
ステップ2:故障と停止を記録し、原因を残す
設備が止まるたびに、日時・停止時間・現象・原因・処置・交換部品を記録します。紙の保全記録は集計されないまま埋もれがちなので、作業日報と同じ仕組みで入力できるようにしておくと続きます。記録の電子化は製造業の日報を電子化する手順が参考になります。3か月も続ければ、どの設備のどの部位が繰り返し止まっているかが見えてきます。
ステップ3:日常点検と定期保全の計画を作る
Aランクの設備から、作業者が毎日行う日常点検と、保全担当が行う定期点検・部品交換の周期を決めます。点検項目には「油面が赤線より上」「異音がない」のように判断の基準を書き、写真を添えます。実施予定は保全カレンダーにまとめ、実施漏れが一目で分かるようにします。
ステップ4:予備品と外部業者の連絡先を整える
Aランク設備の消耗部品と、納期の長い部品を予備品として決め、在庫数と保管場所を管理します。あわせて、メーカーや保全業者の連絡先と過去の対応履歴をまとめておくと、故障時の復旧時間(MTTR)が縮みます。予備品の管理は、資材の在庫管理と同じ仕組みに乗せると手間が増えません。
ステップ5:重要設備から予知保全を小さく始める
記録と点検の仕組みが回り始めたら、故障の影響が大きく、兆候がデータに現れやすい設備を1台選んで予知保全を試します。進め方は次の章で詳しく紹介します。
予知保全とAIを小さく始める方法
予知保全というと大がかりなIoTシステムを想像しがちですが、中小工場では段階を踏んで進めるのが失敗しないコツです。
- 段階1:データを取る:モーターや軸受けの振動、温度、電流値、圧力などを後付けセンサーで取得します。古い設備でも、外付けのセンサーや電流クランプで取れる場合が多くあります。
- 段階2:しきい値で監視する:正常時の値の範囲を把握し、範囲を外れたら通知する仕組みを作ります。これだけでも、故障の前触れを捉えられるケースは少なくありません。
- 段階3:AIで異常を検知する:正常時のデータが十分にたまったら、AIで「いつもと違う」パターンを検知します。複数のデータが少しずつ変化するような、しきい値では捉えにくい兆候に強みがあります。
注意したいのは、データを取っても、それを見て動く人と手順がなければ効果が出ないことです。通知が来たら誰が確認し、どの状態なら設備を止めて点検するのかを、先に決めておきます。また、AIの学習には故障前後のデータと故障記録の突き合わせが欠かせないため、ステップ2の記録がここで生きてきます。製造業でのAI活用の全体像は製造業のAI活用事例や製造業の生成AIユースケースも参考にしてください。
効果の測り方|突発停止・MTBF・MTTR
設備保全の効果は、次の指標で確認します。
- 突発停止の件数と停止時間:最も分かりやすい成果です。設備ごと・月ごとに集計します。
- MTBF(平均故障間隔):故障から次の故障までの平均時間。伸びていれば、故障しにくくなっています。
- MTTR(平均修復時間):故障してから復旧するまでの平均時間。予備品や手順書の整備で縮みます。
- 設備総合効率(OEE):停止の減少が、設備が良品を作っている時間の増加につながっているか。
- 保全費:部品代・外注費・保全の工数。予防保全のやりすぎで増えていないかも確認します。
指標の計算式と選び方は製造業の生産性向上 指標で詳しく紹介しています。段取り替えによる停止を減らす取り組みは段取り替え時間の短縮方法を参考にすると、設備の稼働率を両面から上げられます。
まとめ:設備保全は、設備を知り、止まった記録を残すことから
- 保全には事後保全・予防保全・予知保全があり、設備の重要度で使い分ける
- 突発停止が減らない原因は、記録がない、点検が形だけ、予備品がない、ベテラン頼み、損失が見えないの5つ
- 手順は、設備台帳と重要度ランク→故障の記録→点検と定期保全の計画→予備品の整備→予知保全の5ステップ
- 予知保全は、データを取る→しきい値で監視→AIで異常検知と段階的に進め、通知を受けて動く手順を先に決める
- 効果は突発停止の件数と時間、MTBF、MTTR、OEE、保全費で確認する
設備保全は、高価なセンサーやAIから始めるものではありません。止まったときに記録を残すだけでも、次に手を入れるべき設備と部位が見えてきます。生産性向上の全体像は生産性完全ガイドを、製造業に絞った進め方は製造業のDX・生産性向上ガイドを参考にしてください。
株式会社Sei San Seiでは、生成AI × RPA × 業種特化型の次世代型ERPであるMINORI Cloud 製造業版を提供しています。製造・建設・福祉に最適化された13モジュールで、設備台帳・故障記録・点検計画・予備品の在庫をひとつにまとめ、保全をベテランの経験頼みから仕組みに変える取り組みを支援します。「まずは故障の記録から始めたい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 事後保全・予防保全・予知保全の違いは何ですか?
事後保全は設備が故障してから修理する方法、予防保全は時間や稼働回数を基準に定期的に点検や部品交換を行う方法、予知保全は振動や温度などのデータから設備の状態を監視し、故障の兆候が出た時点で手を打つ方法です。すべての設備を予知保全にする必要はなく、設備の重要度に応じて使い分けるのが現実的です。
Q2. 中小工場は設備保全を何から始めればよいですか?
まず設備台帳を作り、止まったときの影響が大きい設備に重要度ランクを付けることから始めます。次に、設備が止まるたびに停止時間・原因・処置を記録します。記録がたまると、どの設備のどの部位が繰り返し止まっているかが分かり、点検や部品交換の計画を根拠を持って立てられるようになります。
Q3. 予知保全にはどのようなデータが必要ですか?
代表的なのは、モーターや軸受けの振動、温度、電流値、油圧や空圧の圧力、稼働時間やショット数などの稼働ログです。設備ごとに故障の兆候が出やすいデータは異なるため、過去の故障記録から壊れやすい部位を特定し、その部位の状態を表すデータを選びます。古い設備でも後付けセンサーで取得できる場合が多くあります。
Q4. 予知保全にAIは必須ですか?
必須ではありません。振動値や温度が一定のしきい値を超えたら通知する仕組みだけでも、故障の前触れを捉えられるケースは多くあります。AIによる異常検知は、正常時のデータが十分にたまり、しきい値だけでは判断しにくい複雑な兆候を捉えたい段階で効果を発揮します。まずはデータを取り、見える化することが先決です。
Q5. 設備保全の効果はどの指標で測ればよいですか?
突発停止の件数と停止時間、故障から次の故障までの平均時間であるMTBF、故障してから復旧するまでの平均時間であるMTTRが基本の指標です。あわせて、設備総合効率(OEE)や保全にかかった費用も確認します。MTBFが伸びれば故障が減り、MTTRが縮めば復旧が早くなったことを示します。