標準時間の求め方|製造現場のストップウォッチ法と余裕率の計算例、工数見積り・生産計画に使える標準時間を設定する6つの手順
「見積りの工数がベテランの勘頼みで、人によって金額が違う」「生産計画を立てても、毎月どこかの工程があふれて残業になる」「作業が速くなったのか遅くなったのか、比べる物差しがない」。中小製造業の現場で、こうした悩みの根っこにあるのが標準時間が決まっていないことです。
標準時間は、見積り、生産計画、必要人数の計算、能率の評価など、工場の計画の多くに使われる基準の数字です。難しい専門技術のように思われがちですが、ストップウォッチと作業標準があれば、主要な品目から少しずつ作り始められます。
この記事では、標準時間の意味と実績時間・サイクルタイム・工数との違い、正味時間・レイティング・余裕率を使った計算式と計算例、4つの測定方法、設定の6つの手順、標準時間から工数・必要人数・能率を計算する方法を、中小工場の現場を前提に整理します。
標準時間とは|実績時間・サイクルタイム・工数との違い
標準時間は、その作業に慣れた作業者が、決められたやり方と条件のもとで、普通のペースで作業したときにかかる時間に、必要な余裕を加えた時間です。標準時間をはじめとする生産管理の用語は、JIS Z 8141(生産管理用語)で定義されています。
ポイントは、「速い人の時間」でも「今かかっている時間」でもなく、誰がやっても目指せる基準の時間だという点です。よく混同される言葉との違いを整理します。
| 用語 | 意味 | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 標準時間 | 決められたやり方・普通のペースでの作業時間に余裕を加えた基準の時間 | 見積り、生産計画、必要人数の計算、能率の評価 |
| 実績時間 | 実際にかかった時間(作業日報などの記録) | 標準時間との比較、原価の実績把握 |
| サイクルタイム | ある工程で1個の作業を終えるのに実際にかかっている時間 | 現状の把握、ボトルネック工程の特定 |
| タクトタイム | 稼働時間を必要な生産数で割った、1個を作るべきペース | ラインの編成、生産ペースの目標 |
| 工数 | 仕事の量を「人数×時間」で表したもの(人・時、人・日、人工など) | 見積り、負荷計算、要員計画 |
サイクルタイムは「今の実力」を測った数字、標準時間は「計画の物差し」になる数字です。ラインのどこが詰まっているかを探すときはサイクルタイムを使い、その方法はボトルネック工程の見つけ方と改善方法で解説しています。標準時間に数量を掛けたものが、見積りや負荷計算で使う工数になります。
標準時間の構成と計算式
標準時間は「正味時間+余裕時間」でできている
1個あたりの作業の標準時間(主体作業の時間)は、正味時間と余裕時間の2つでできています。
- 正味時間:部品を取る、締める、検査するなど、作業そのものに必要な時間。観測した時間を、普通のペースに換算して求める
- 余裕時間:作業の中で不規則に発生する、避けられない遅れや中断の時間
さらにロット単位で考えるときは、段取り時間(準備・段取り替え・後片付け)を加えます。
レイティングで「普通のペース」に換算する
観測した作業者がたまたま速い人や遅い人だと、そのまま標準にはできません。そこで、観測した作業のペースが普通のペースに対してどれくらいかを評価し、時間を補正します。これをレイティングと呼びます。
正味時間 = 観測時間の平均 × レイティング係数 ÷ 100
普通のペースを100とし、観測した人がそれより速ければ100より大きく、遅ければ100より小さく評価します。レイティングは観測者の判断が入るため、同じ人が、同じ基準で評価することが精度を保つコツです。最初のうちは、習熟した作業者を観測し、レイティングは100(補正なし)に近い前提で始めても構いません。
余裕の4つの種類
| 区分 | 余裕の種類 | 例 |
|---|---|---|
| 管理余裕 | 作業余裕 | 材料の補充、刃物の交換、機械の小さな調整、切りくずの除去 |
| 職場余裕 | 朝礼、打ち合わせ、指示待ち、職場の清掃 | |
| 人的余裕 | 用達余裕 | 水を飲む、トイレ、汗をふく |
| 疲労余裕 | 重量物の取り扱いや暑い職場など、作業の疲れを回復するための時間 |
余裕を正味時間に対する割合で表したものが余裕率です。余裕率の計算には2つの方式があります。
- 外掛け法:余裕率 = 余裕時間 ÷ 正味時間。標準時間 = 正味時間 ×(1+余裕率)
- 内掛け法:余裕率 = 余裕時間 ÷(正味時間+余裕時間)。標準時間 = 正味時間 ÷(1-余裕率)
同じ「10%」でも、外掛け法と内掛け法では標準時間が少し変わります。社内でどちらの方式を使うかを決めて統一することが大切です。
計算例:組立作業の標準時間
ある組立作業を10回観測し、明らかな異常値(部品の落下で手が止まった回など)を除いた平均が2.0分だったとします。観測した作業者のペースを普通より少し遅い90と評価し、余裕率を外掛け法で10%とすると、次のようになります。
- 正味時間 = 2.0分 × 90 ÷ 100 = 1.8分
- 標準時間 = 1.8分 ×(1+0.10)= 1.98分/個
- (内掛け法で余裕率10%なら、1.8分 ÷(1-0.10)= 2.0分/個)
この品目を1回の段取り30分で200個つくる場合、1ロットの標準時間 = 30分 + 1.98分 × 200個 = 426分(7.1時間)です。段取り時間は、ロットの数量が小さいほど1個あたりの時間に大きく効くため、段取り替え時間の短縮とあわせて管理します。
標準時間の4つの測定方法
標準時間の求め方には主に次の4つがあります。精度と手間のバランスで、品目や工程ごとに使い分けます。
| 方法 | やり方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ストップウォッチ法(時間研究) | 実際の作業をストップウォッチや動画で繰り返し測り、レイティングと余裕率で標準時間にする | 繰り返しの多い量産品、主要な工程。中小工場で最初に使いやすい |
| PTS法 | 「手を伸ばす」「つかむ」などの基本動作ごとにあらかじめ決められた時間を積み上げる(MTM、WF、MODAPTSなど) | まだ作業が始まっていない新製品、手作業の細かい動作の設計。習得に教育が必要 |
| 実績資料法 | 作業日報などの過去の実績時間を集計し、平均やばらつきから標準時間を決める | 多品種少量品、繰り返しの少ない作業。実績データが品目別に残っていることが前提 |
| 経験見積法 | 経験のある監督者や技術者が、似た作業との比較で見積もる | 一品物、急ぎの見積り。人によるばらつきが大きいため、実績での確認が欠かせない |
このほか、作業者や設備の状態を一定間隔で瞬間的に観測し、「作業している」「材料待ち」「打ち合わせ」などの割合を調べるワークサンプリングは、余裕率を決めるときや、作業以外の時間がどれだけあるかを調べるときに役立ちます。
中小工場では、主要品目はストップウォッチ法、それ以外は実績資料法で始め、経験見積法で決めていた数字を順に置き換えていく進め方が現実的です。
標準時間を設定する6つの手順
手順1:対象の作業と使い道を決める
最初に、標準時間を何に使うかを決めます。見積りの精度を上げたいのか、生産計画で工程の負荷を見たいのか、作業の能率を評価したいのかで、必要な細かさが変わります。対象は、すべての品目を一度に扱わず、売上や生産量の大きい品目、または計画がよくあふれる工程から20〜30品目程度を選びます。
手順2:作業のやり方を決め、要素作業に分ける
やり方が人によって違うまま測ると、標準時間も人によって変わってしまいます。まず作業標準書で作業のやり方、使う設備・治具、作業条件をそろえます。そのうえで、作業を「部品を取って置く」「ボルトを締める」「外観を検査する」のように、始まりと終わりがはっきりした要素作業に分けます。要素作業に分けておくと、どこに時間がかかっているかが見え、改善の手がかりにもなります。
手順3:作業を観測し、正味時間を求める
その作業に習熟した作業者に協力してもらい、要素作業ごとに10回程度を目安に繰り返し観測します。スマートフォンで動画を撮っておくと、あとから何度でも見返せ、観測者が1人でも測りやすくなります。部品の落下や設備の故障など、毎回は起きない異常値は除き、平均にレイティング係数を掛けて正味時間を求めます。観測の前には、作業者を評価するためではなく、計画の基準を作るための測定であることを説明しておきます。
手順4:余裕率を決め、標準時間を計算する
余裕率は、職場で仮の値を決めて始め、ワークサンプリングなどで実際に作業以外の時間がどれだけ発生しているかを確かめて見直します。重量物を扱う作業や暑い職場では、疲労余裕を大きめに見込みます。外掛け法か内掛け法かを決め、正味時間に余裕を加えて1個あたりの標準時間を計算します。
手順5:段取り時間と合わせ、品目別のマスタにする
品目・工程ごとに、1回あたりの段取り時間と、1個あたりの標準時間を一覧にします。見積り担当、生産計画担当、現場がそれぞれ別のExcelに数字を持っていると、すぐに食い違いが生まれます。一覧は1か所で管理し、版と改訂日を残します。この一覧は、工程管理で各工程の負荷や完了予定を計算するときの土台になります。
手順6:実績と比べて定期的に見直す
運用を始めたら、作業日報の実績時間と標準時間を月1回程度比べます。差が大きい工程は、作業方法がそろっていないのか、標準時間が実態と合っていないのかを確かめ、どちらかを直します。改善で作業が速くなったら、標準時間も改訂することを忘れないようにします。古い標準時間のままだと、見積りや計画が実力より甘くなります。
標準時間から工数・必要人数・能率を計算する
工数の見積り
標準時間が決まると、仕事の量を工数で表せます。先ほどの例で、この品目の月の受注が2,000個、段取りが月10回なら、
- 主体作業:1.98分 × 2,000個 = 3,960分 = 66時間
- 段取り:30分 × 10回 = 300分 = 5時間
- 合計:71時間(人・時)
工数に賃率(1時間あたりの加工費)を掛ければ、見積りの加工費の根拠になります。勘に頼った見積りを、数字で説明できる見積りに変えられるのが、標準時間の大きな効果です。原価の把握をExcelから仕組み化する方法は製造業の原価管理をExcelから移行する方法で紹介しています。
必要人数と負荷の計算
工程ごとに月の工数を積み上げ、1人あたりの作業可能時間で割ると、必要な人数がわかります。
必要人数 = 必要工数 ÷ 1人あたりの作業可能時間
例えば、ある工程の月の必要工数が420時間、1人あたりの作業可能時間が1日7時間×20日=140時間なら、必要人数は3人です。今の人数では足りない月が事前にわかれば、残業の計画や、他工程からの応援、外注を早めに手配できます。応援を出せる人がいるかは、スキルマップで確認しておくと判断が早くなります。
能率の計算
標準時間は、作業がどれだけ効率よく進んだかを測る物差しにもなります。
能率(%)= 標準時間 × 生産数 ÷ 実際の作業時間 × 100
例えば、1日に200個を作り、実際の作業時間が450分だったなら、標準時間で換算した工数は1.98分×200個=396分なので、能率は396 ÷ 450 × 100 = 88%です。能率が低い日は、材料待ち・設備の停止・手直しなど、何が時間を使ったかを日報から確かめます。工場全体の指標の選び方は製造業の生産性向上 指標を参考にしてください。
標準時間を運用するときの注意点
1. 作業者を責める道具にしない
能率の数字を個人の評価や叱責に直結させると、作業者は観測のときだけゆっくり作業したり、日報の時間を調整したりするようになり、数字が信用できなくなります。能率が低い原因は、まず仕組み(段取り、材料、設備、作業方法)の側から探すという原則を、管理者が先に示します。
2. 精密さより、使い続けることを優先する
最初から全品目を秒単位で測ろうとすると、測定だけで何か月もかかり、途中で止まります。主要品目から始め、実績と比べながら精度を上げていくほうが、早く効果が出ます。
3. 多品種少量は、似た品目をグループで扱う
品目が多い工場では、形状や工程が似た品目をグループに分け、代表品目を観測して基準を作り、サイズや穴の数などの違いで時間を補正する方法が使えます。品目別の実績データが日報から取り出せる状態にしておくと、実績資料法との組み合わせで精度を上げられます。
4. 標準時間と作業標準をセットで改訂する
標準時間は、作業のやり方が決まっていて初めて意味を持つ数字です。改善で作業のやり方が変わったら、作業標準書と標準時間を同時に改訂し、改訂日を記録します。片方だけ変わると、現場と計画の数字が再びずれていきます。
まとめ:標準時間は、計画と改善の共通の物差し
- 標準時間は、慣れた作業者が決められたやり方と普通のペースで作業した時間に、必要な余裕を加えた基準の時間。サイクルタイムは現状の実力、標準時間は計画の物差し
- 計算式は、正味時間=観測時間の平均×レイティング係数÷100、標準時間=正味時間×(1+余裕率)(外掛け法)。ロット単位では段取り時間を加える
- 測定方法は、ストップウォッチ法・PTS法・実績資料法・経験見積法の4つ。主要品目はストップウォッチ法、それ以外は実績資料法から始める
- 手順は、対象と使い道の決定→作業標準と要素作業への分解→観測と正味時間→余裕率と標準時間の計算→品目別マスタ化→実績との比較と見直しの6つ
- 標準時間から、工数の見積り、必要人数、能率を計算できる。作業者を責める道具にせず、作業標準とセットで改訂する
標準時間は、生産量の大きい1品目を10回観測するところから始められます。工程の流れを整理する方法は製造業の業務フロー図の書き方を、生産性向上の考え方は生産性完全ガイドを、製造業に絞った進め方は製造業のDX・生産性向上ガイドを参考にしてください。
株式会社Sei San SeiのMINORI Cloud 製造業版は、生成AI × RPA × 業種特化型の次世代型ERPとして、作業日報の実績時間や工程の進捗を同じ仕組みの中で扱い、標準時間と実績の比較や工程の負荷の確認をしやすい状態づくりを支援します。「見積りの工数が人によって違う」「実績時間をどう集めればよいか相談したい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 標準時間とは何ですか?
その作業に慣れた作業者が、決められたやり方と条件のもとで、普通のペースで作業したときにかかる時間に、必要な余裕を加えた時間です。工数の見積り、生産計画、必要人数の計算、作業の能率の評価など、工場のさまざまな計画の基準になります。用語の定義はJIS Z 8141(生産管理用語)で定められています。
Q2. 標準時間の計算式を教えてください。
1個あたりの標準時間は、正味時間に余裕時間を加えて求めます。正味時間は観測した作業時間の平均にレイティング係数を掛けたもので、余裕率を正味時間に対する割合で決める外掛け法では、標準時間=正味時間×(1+余裕率)です。例えば正味時間1.8分、余裕率10%なら1.98分になります。ロット単位では段取り時間を加えます。
Q3. 標準時間とサイクルタイムの違いは何ですか?
サイクルタイムは、ある工程で1個の作業を終えるのに実際にかかっている時間で、現状を測った数字です。標準時間は、決められたやり方と普通のペースで作業した場合の時間に余裕を加えた基準の数字で、計画や評価の物差しとして使います。サイクルタイムは現状の把握やボトルネックの特定に、標準時間は見積りや人員計画に使うと考えると整理しやすくなります。
Q4. 余裕率はどう決めればよいですか?
余裕には、材料の補充や機械の調整などの作業余裕、打ち合わせや朝礼などの職場余裕、水を飲むなどの用達余裕、作業の疲れを回復する疲労余裕があります。最初は職場で仮の値を決めて始め、ワークサンプリングなどで作業以外の時間が実際にどれだけ発生しているかを調べて見直すのが現実的です。重筋作業や暑い職場では疲労余裕を大きめに見込みます。
Q5. 多品種少量生産でも標準時間は設定できますか?
設定できます。すべての品目を観測するのは現実的ではないため、形状や工程が似た品目をグループに分け、代表品目を観測して基準を作り、サイズや穴の数などの違いで時間を補正する方法がよく使われます。作業日報の実績データを品目別に集めておくと、実績資料法で標準時間を作ったり、観測で作った標準時間の精度を確かめたりできます。