動作経済の原則とは|製造現場の基本4原則と、身体の使い方・作業場の配置・治工具の改善例、サーブリッグで動作のムダを見つけて作業を改善する6つの手順
「同じ組立作業なのに、ベテランと新人で1個あたりの時間がかなり違う」「部品を取りに振り向いたり、工具を探したりする動きが多い」「設備を入れるほどの予算はないが、手作業の効率を上げたい」。中小製造業の現場では、こうした悩みをよく聞きます。手作業の時間の中には、作業者が気付かないうちに積み重なった小さなムダな動作が含まれていることが少なくありません。
この記事では、手や体の動きを見直して作業を楽に速くするための動作経済の原則について、基本4原則、身体の使い方・作業場の配置・治工具の3つの視点のチェック項目、サーブリッグを使った動作分析、小物組立の改善例、現場で進める6つの手順を整理します。工程全体の中で改善する作業を決めるにはワークサンプリングなどの稼働分析が、改善の効果を時間で表すには標準時間が役立つため、それぞれの記事ともつなげて解説します。
動作経済の原則とは|ムダな動作をなくし、楽に速く作業するための経験則
動作経済の原則とは、人が作業するときの動作を、疲れが少なく、ムダがなく、速くできるようにするための経験則をまとめたものです。動作研究の創始者とされるフランク・ギルブレスの研究をもとに、のちにラルフ・バーンズらが「身体の使い方」「作業場の配置」「治工具と設備の設計」という視点で整理しました。インダストリアル・エンジニアリング(IE)の基本的な手法の1つで、日本の工場でも改善の考え方として広く使われています。
ポイントは、作業者に「急いで動いてもらう」ことではなく、動作そのものを減らし、楽にすることです。探す・選ぶ・持ち替える・振り向く・かがむといった動作は、1回あたりは数秒でも、1日に何百回と繰り返すと大きな時間と疲れになります。
動作研究・時間研究との関係
IEでは、作業を動作研究(どう動いているかを分析して、よい方法を考える)と時間研究(その方法にかかる時間を測る)の両面から見直します。動作経済の原則は、動作研究で改善案を考えるときの物差しにあたります。改善後の方法で時間を測り直して標準時間を設定すれば、効果を数字で示せます。
動作経済の基本4原則
動作経済の原則は細かく分けると数十項目ありますが、現場では次の4つの基本原則にまとめて使われることが多いです。上から順に検討すると、効果の大きい改善から手を付けやすくなります。
| 基本原則 | 考え方 | 現場での改善の例 |
|---|---|---|
| 1. 動作の数を減らす | なくせる動作はないか | 部品や工具の定位置化で「探す」をなくす、向きをそろえて供給し「持ち替える」をなくす |
| 2. 動作を同時に行う | 両手を同時に使えないか | 保持治具で片手の「持っているだけ」をなくす、左右対称の配置で両手で同時に部品を取る |
| 3. 動作の距離を短くする | 近づけられる物はないか | よく使う部品を手の届く範囲に置く、歩行や振り向きをなくす配置にする |
| 4. 動作を楽にする | 負担の大きい動作はないか | 作業台の高さを合わせてかがむ姿勢をなくす、重い物はバランサーや台車で扱う |
1つめの「数を減らす」は、5Sの三定(定位置・定品・定量)と深く関係します。置き場所が決まっていない現場では、動作改善の前に5Sを進めたほうが効果が早く出ることもあります。
3つの視点で見るチェック項目
バーンズの整理に沿って、現場で確認しやすい項目を3つの視点に分けると次のようになります。すべてを満たす必要はなく、作業を見ながら当てはまらない項目を改善のヒントにする使い方が向いています。
身体の使い方
- 両手は同時に動き始め、同時に終わっているか
- 休憩以外で、片手が止まっていたり、物を持っているだけになっていたりしないか
- 両腕は左右対称に、反対方向へ動かせているか
- 指や手首で済む動作を、腕や体全体で行っていないか
- 急な方向転換が少なく、なめらかな曲線の動きになっているか
作業場の配置
- 部品と工具に定位置があり、使う順に、手の届く範囲に並んでいるか
- 部品の供給に重力(傾斜棚・シュート)を使い、取り出しやすくしているか
- 完成品を置く動作を「落とす」動作で済ませられないか(落とし送り)
- 作業台と椅子の高さが、作業者と作業内容に合っているか
- 照明や視線の位置が、細かい作業を見やすくしているか
治工具と設備の設計
- 部品を手で保持する代わりに、治具や足踏みの装置で固定できないか
- 2つの工具を1つにまとめられないか
- 工具は使う位置の近くに吊り下げるなどして、すぐ使え、すぐ戻せるか
- レバーやハンドルは、力を入れやすい形・位置になっているか
サーブリッグで動作のムダを見つける
動作のムダを見つけるには、作業を細かい動作に分けて記録します。代表的な方法がサーブリッグで、ギルブレスが考案した、手作業を18種類程度の基本動作に分ける記録方法です(名前はGilbrethの綴りを逆にしたものに由来するとされます)。日本のIEの教科書では、次の3つに分類して説明されることが一般的です。
| 分類 | 主な基本動作 | 改善の方向 |
|---|---|---|
| 第1類:仕事に必要な動作 | 手をのばす、つかむ、運ぶ、組み合わせる、使う、分解する、放す、調べる | 距離を短くし、楽にできるようにする |
| 第2類:第1類を遅らせる動作 | 探す、見つける、選ぶ、考える、位置を決める、前もって置く | 定位置化や治具で、できるだけなくす |
| 第3類:仕事をしていない動作 | 保持する、避けられない遅れ、避けられる遅れ、休む | 保持は治具に任せ、手待ちは作業の順序で減らす |
現場で最初から18種類を厳密に使い分ける必要はありません。動画を見ながら、左手と右手それぞれの動きを書き出し、第2類と第3類にあたる動作に印を付けるだけでも、改善すべき箇所ははっきりします。このように左右の手を並べて記録する方法は「両手動作分析(左右手分析)」と呼ばれます。
小物組立での改善例
以下は、金属ブラケットに部品を2本のねじで締結する小物組立を想定した説明用の例です。時間や動作の内容は架空のもので、実際の効果は作業内容によって異なります。
| 改善前の動作 | 当てはまる原則 | 改善後 |
|---|---|---|
| 部品箱が背後の棚にあり、毎回振り向いて取る | 距離を短くする | 傾斜棚で作業台の前方、手の届く範囲に部品を供給 |
| ねじを箱の中から1本ずつ探してつまむ | 数を減らす | ねじを向きをそろえて並べるトレイから取る |
| 左手でブラケットを持ったまま、右手だけで締める | 同時に行う | 保持治具で固定し、左手で次の部品を準備する |
| 電動ドライバーを引き出しから出し入れする | 数を減らす・距離を短くする | 使う位置の真上に吊り下げ、手を放せば戻る形にする |
| 完成品をかがんで足元の箱に入れる | 楽にする | 作業台の端のシュートに置き、箱へ滑り落とす |
この例では、改善前に1個あたり約40秒かかっていた作業が、改善後に約30秒になったと仮定します。1日に600個作る作業なら、1日あたり約100分の差になる計算です。こうした「1回数秒」の改善は、繰り返し回数の多い作業ほど効果が大きくなります。改善ネタをほかの領域にも広げたい場合は工場の業務改善 具体例30選も参考になります。
動作経済の原則で作業を改善する6つの手順
手順1:改善する作業を選ぶ
すべての作業を一度に見直すのは現実的ではありません。ライン全体の生産量を決めているボトルネック工程の作業、繰り返し回数が多い手作業、作業者によって時間の差が大きい作業から1つを選びます。どの作業に時間が使われているかがわからない場合は、先にワークサンプリングで稼働の内訳をつかむと、対象を絞りやすくなります。
手順2:作業を動画で撮影する
作業者の手元と全身の動きがわかる角度から、数サイクル分を撮影します。スマートフォンで十分です。撮影の前に、目的は作業者の評価ではなく作業のやり方を楽にするためであることを伝えておくと、普段どおりの作業を撮りやすくなります。
手順3:動作に分解して記録する
動画をコマ送りし、左手と右手それぞれの動作を書き出します。サーブリッグの分類を使い、探す・選ぶ・位置を決める・保持する・手待ちといった第2類・第3類の動作に印を付けます。熟練者と経験の浅い人の動画を並べて比べると、違いが出ている動作がわかり、よいやり方を標準にするヒントになります。
手順4:基本4原則でムダな動作を洗い出す
印を付けた動作を中心に、「なくせないか」「両手で同時にできないか」「近づけられないか」「楽にできないか」の順に問いかけて改善案を挙げます。前の章のチェック項目を1枚の紙にして、作業者・班長・改善担当の数人で動画を見ながら確認すると、案が出やすくなります。
手順5:配置・治工具・順序の改善案を試す
部品の置き場所や作業の順序の変更は、お金をかけずにその日のうちに試せます。治具が必要な案も、最初は段ボールや木材で仮の形を作り、作業者に使ってもらって意見を聞いてから本格的に作ると失敗が減ります。品質に影響する変更は、変化点として扱い、変更後の最初の製品を確認しておきます。
手順6:効果を測り、作業標準書と標準時間に反映する
改善前と同じ条件でサイクルタイムと動作の数を測って比べます。効果が確認できたら作業標準書の手順と急所を書き換え、標準時間も改訂します。改訂しないままだと、人が替わったときに元のやり方へ戻りやすくなります。同じような作業がある工程には、改善の内容を写真付きで横展開します。
動画とデータで改善を続けやすくする
動作改善は、1回で終わりではなく、品種や作業者が変わるたびに見直すと効果が続きます。撮影した動画と改善前後の時間を作業ごとに残しておけば、新人教育の教材にもなり、改善の効果を後から振り返れます。日々の生産実績や作業時間をデータで集めていれば、改善後に時間が元に戻っていないかも確認できます。段取り作業の動作を見直す場合は、内段取りと外段取りを分ける段取り替え時間の短縮の考え方と組み合わせると効果的です。
まとめ:動作経済の原則は、4原則と動画の分析で「小さなムダな動作」を減らす
- 動作経済の原則は、作業の動作を疲れが少なく、ムダがなく、速くできるようにするための経験則。急がせるのではなく、動作そのものを減らし、楽にする
- 基本4原則は、動作の数を減らす、同時に行う、距離を短くする、楽にする。上から順に検討する
- 身体の使い方・作業場の配置・治工具と設備の3つの視点のチェック項目で、当てはまらない点を改善のヒントにする
- サーブリッグで動作を分け、探す・選ぶ・保持・手待ちなどの第2類・第3類の動作を重点的に減らす
- 手順は、作業の選定→動画撮影→動作への分解→4原則での洗い出し→配置・治工具・順序の試行→効果測定と標準化、の6つ
まずは繰り返し回数の多い作業を1つ選び、スマートフォンで撮影して「探す」「持っているだけ」の動作を数えるところから始められます。生産性向上の考え方は生産性完全ガイドを、製造業に絞った進め方は製造業のDX・生産性向上ガイドを参考にしてください。
株式会社Sei San Seiでは、生成AI × RPA × 業種特化型の次世代型ERPであるMINORI Cloud 製造業版を提供しています。製造・建設・福祉に最適化された13モジュールで、作業時間や生産実績の記録をまとめ、改善の効果を数字で確かめられる仕組みづくりを支援します。「まずは1つの作業の改善前後を記録する方法から整えたい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 動作経済の原則とは何ですか?
動作経済の原則とは、人が作業するときの動作を、疲れが少なく、ムダがなく、速くできるようにするための経験則をまとめたものです。動作研究の創始者とされるギルブレスの研究をもとに、のちにバーンズらが、身体の使い方・作業場の配置・治工具と設備の設計という視点で整理しました。現場では、動作の数を減らす、同時に行う、距離を短くする、楽にするの4つの基本原則として使われることが多いです。
Q2. 動作経済の基本4原則とは何ですか?
動作の数を減らす、動作を同時に行う、動作の距離を短くする、動作を楽にする、の4つです。探す・選ぶ・持ち替えるといった動作をなくす、両手を同時に使い片手で保持しない、部品や工具を手の届く範囲に置く、重い物の持ち上げや無理な姿勢をなくす、といった改善につながります。上から順に検討すると、効果の大きい改善から手を付けやすくなります。
Q3. サーブリッグとは何ですか?
サーブリッグとは、ギルブレスが考案した、人の手作業を18種類程度の基本動作に分けて記録する方法で、名前はギルブレス(Gilbreth)の綴りを逆にしたものに由来するとされます。つかむ・運ぶ・組み合わせるなど仕事に必要な動作、探す・選ぶ・位置決めなど作業を遅らせる動作、保持・手待ちなど仕事をしていない動作に分けて、改善すべき動作を見つけます。
Q4. 動作経済の原則とECRSの違いは何ですか?
ECRSは、排除・結合・交換(入れ替え)・簡素化の順に改善案を考える、工程や業務全体にも使える改善の考え方です。動作経済の原則は、その中でも手や体の動きという細かい単位に絞って、ムダな動作をなくすための具体的な原則をまとめたものです。工程や作業の単位ではECRS、1つの作業の中の動作の単位では動作経済の原則、と使い分けると整理しやすくなります。
Q5. 動作を改善すると作業者の負担が増えませんか?
動作経済の原則は、速く動くことではなく、ムダな動作と疲れを減らすことを目的にしています。正しく進めれば、探す・歩く・かがむといった動作が減り、負担はむしろ軽くなります。空いた時間にほかの作業を詰め込みすぎると負担が増えるため、改善後の作業量は標準時間をもとに決め、作業者の意見を聞きながら調整することが大切です。